2025/09/05号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 705

日常の向こう側 ぼくの内側 No.705 横尾忠則 2025.8.25 妻と美美と徳永で銀座GUCCIの第2弾展の初日に行く。新作が加わって一段と展示室は華やかに変貌。銀座でかき氷が食べたくなって店を探すが、どこも超満員。南さんと成城でかき氷をと戻ってくるが、ここも超満員。結局コンビニのシャーベットで我慢する。  大谷が45号を放ってダッグアウト横のパドレスファンとハイタッチをして相手を巻き込んでしまうのはさすが。 2025.8.26 〈地方都市に美美と。電車の発車時間が5分しかなく急ぐ。その途中に石を積み上げたY字路を発見。「いただき」と思う。駅で切符を買うが、もたもたして果たして電車に乗れたのか、どうか〉の夢を見る。  もしや顎ガンではと恐れて国立東京医療センターへ徳永と。主治医の鄭先生不在で内科長の本田女医の診断を受ける。顎のレントゲンを2ヶ所で撮るが、これがまた物凄い高性能技術らしく、しかも長時間機械人間にさせられた感じでさらに顎の専門医の診断で4時間ヘトヘトだが、さすが大病院と妙に感心する。心配していた所見はなく見事パス。  病院に行ったことがバレて、帰宅と同時に「寄ってもらいたかった」と知人の角田先生からのメールが入る。 2025.8.27 東京都浴場組合の人達4人が見える。全員が銭湯業。東京の銭湯が500に減ったが、その反面若者、外国人が増えている。つまり銭湯業をする者がいないという。以前浴場のポスターをシリーズで描いたその第2弾を期待したが、浴場は滅亡の危機。 2025.8.28 実は描きかけの絵に行きづまっている。描いては消し、消しては描きの繰り返し。何をどう描こうとしているのかがさっぱりわからない。かつて描いたことのない絵を描こうとしているらしいが、それもわからない。多分、絵ではない絵を描こうとしているらしいが、それもわからない。つまり認知症絵画を描こうとしているらしい。というか限界を超えたいのかも知れない。  朝日新聞の書評編集者の星野さん来訪。別に用があるわけではない。用のない用のために、用のない話で時間をつぶすのも時には躰の中が空っぽになっていい。 2025.8.29 〈ウォーホルが身体の中に入ってきて、生前、美術界からのけ者にされていたというグチを、ぼくの口を通して語る〉夢だかなんだか、こんな経験は初めてなので、何が起こったのかわからない。  パリのカルティエの新美術館開館に合わせて、様々なグッズ展開にカルティエ所蔵作品使用の同意を求める依頼あり。  玉川病院の眼科へ。アレルギーと目の乾燥で目薬を処方される。 2025.8.30 絵が行き詰っているので、以前からの懸案事項になっていた「ミロクモーツァルト」の陶器作品の彩色でもするか。この作業は職人的で、絵画とは全く異なる子供的快感に陶酔する。  ヤクルトの村上1試合に3ホーマー。小児がん支援の試合で、小児がんの子供のことを想って無心にバットを振ったことが3ホーマ―に。 2025.8.31 〈北野武さんと対談。「今一番怖いことは?」と聞くので、「妻が先に死んだ場合」と答えると、「では次には?」と言うので、「武さんが目の前でコロリと死ぬこと」と答える〉夢を見る。  〈西脇の実家の裏庭で武さんに妻が、成城の家のことが心配と話をしている。そこへぼくが割って入って妻に「自分が見つけた家だからいつまでも残したいという執着はわかるけど。家は物質だから時間が経って壊れるもんだ」〉と言う夢を見た、というと妻は山田耕筰さんが住んでいた家だからねと言う。芥川だって夏目だって、皆んな家は壊れてないよと答えると、妻は態度が変って「面倒だから宇宙にあづけた」と言ったので、それでいいと言う。  野矢茂樹さん午後に来訪。野矢さんの話全部が哲学に聞こえるが、ぼくの話全部が野矢さんには芸術に聞こえているのかな。(よこお・ただのり=美術家)