書評キャンパス
仲野太賀・阿部裕介・上出遼平『MIDNIGHT PIZZA CLUB』
黒岩 朱
「MIDNIGHT PIZZ CLUB」
自らをそう呼ぶ男たちがニューヨークにいる。俳優の中野太賀、テレビディレクター・プロデューサー・作家の上出遼平、写真家の阿部裕介である。本作は彼らが「世界一美しい谷」と呼ばれるネパールのランタン谷を一週間かけて歩く旅行記である。旅行を題材とした作品は数多あるけれど、複数人の旅で、彼らが自らのフィルムカメラで撮った写真が数多く挿入されている本は珍しい。写真を見て、文章を読んで、旅行を追体験できる作品である。そして旅に出る意味や目的を見出すきっかけをくれる言葉が散りばめられている。
筆者は頻繁に旅に出ている。高い学費を払って大学に入学したにも関わらず、学業そっちのけで旅に出る。周りにも単位の取得が分かれる試験期間中だというのに、航空券が安いという理由で海外に旅行にいった友人がいる。
しかし旅に出る意味や目的とは一体何だろうか。筆者はその問いについて、しばし考え込んでしまう。「タイパ」や「コスパ」といった言葉が広まり、効率的かつ合理的な行動が現代社会の規範となりつつある。そんな時代において、旅行という行為は〝ムダ〟に思える。見たい景色を見るためにわざわざ険しい道を歩かなくても、いまやインターネットで気軽に見る事ができる。本書にも「旅には合理性はない。私たちは安心安全に生きていたいなら、わざわざ時間とお金をかけて旅に出る必要はない。」と記されている。
著者たちも旅行が非効率的で、非合理的な事はわかっている。しかし同時に、旅行の意味や目的も数多、説いているのだ。
その一つが「上質な休憩をするため」である。これは、著者らがランタン谷の登山口付近のカフェで腰を下ろしている場面の言葉だ。彼らはなかなか歩き出さない。歩くために来たのに、歩き始めたら、歩かなければならない、ということが恐ろしくなり、後回しにしている。出発が遅くなればなるほど後がつらいとわかっているのに。そのような状況で見出した一つの旅行の意味が、前述の言葉である。上質な休憩をするために、過酷な旅を必要としているとも言える。
また阿部裕介は言う、「大人になったらできることも限られてくるから、それまでに色々経験しておきたいんだ」と。「大人」という表現は曖昧だが、確かにライフサイクルの中に子育てや仕事が含まれてくると、時間が無くなる。さらに時間が経てば、体が衰えて、やがて年を重ねていけば、旅はおろか、歩くことが困難になることもあるだろう。そんな状態では過酷な道を歩くのは不可能だし、それによって生まれる上質な休憩は期待できない。
筆者を含む大学生は、大人になる日を危惧して、今この瞬間にしかできない経験や体験をしようとしているのかもしれない。その一つが旅に出るという事だろう。そう考えると、試験期間中に海外に旅行にでかけた友人の事も理解できる。
本作品では旅の意味や目的などを教えてくれる。本書は、旅に行きたいけれど迷っている、億劫だという人の背中を押してくれる一冊だ。