著者から読者へ
英米文学アラカルト
岡本 正明
このたび、『英米文学アラカルト お気に召すまま』を出版させていただきました。本書は、英米の作家(文筆家)、あるいは、英米の視点からとらえたニッポン文学・文化について、折あるごとに書きしるした文章のなかから、三十編ほどを選んで一冊にまとめたものです。学術論文、随想、紹介記事など、さまざまなジャンルの文章をあつめたエッセイ集であり、いわば、自由気ままな「英米文学の散歩道」であります。何をどこから読んでも「お気に召すまま」、料理にたとえるなら、フルコースではなく「アラカルト」のようなものです。本書のカバーのデザインは、こうした内容をビジュアルで伝えようとしています。
第一部と第二部は、イギリス文学やアメリカ文学の枠に収まらないコスモポリタン的な作家である、ロレンス・ダレルとヘンリー・ジェイムズにかんする推理小説的「謎とき」を主眼とした論考から成っております。
第三部は、歴史・思想など、主として小説ジャンル以外の散文にかんする論考をあつめたものです。ウィリアム・ジェイムズ、オールダス・ハクスリー、トマス・ピンチョン、レイチェル・カーソンについての論文などを収録しました。
第四部は、アメリカ作家についての論考からなり、トマス・ウルフとヘンリー・ミラーを中心とするものです。
第五部は、主として、英米の視点からとらえたニッポン文学・文化をテーマとしています。英訳をとおして読む「カワバタ」文学論、ジョン・ラファージにかんする小論、ニッポン文学をグローバルな視点からとらえた「時間」にかんする論考を収めました。
それらエッセイの中には、「今」と深くかかわるものも多く収録されております。今年生誕一〇〇年を迎える三島由紀夫についての小論、三島とおなじく現在世界的に評価が高い村上春樹についての小文、「万博」とヘンリー・アダムズのかかわりについてのエッセイ、世界的な紛争の時代を背景として書かれたエドマンド・ウィルソン論(戦争論)、差別や憎しみや対立のない世界(「聖者の共同体」)を希求する『ハックルベリー・フィンの冒険』についての考察、度重なる自然災害、そしてコロナ禍によって生じた苦難と絶望からの「復活と再生」の願いを込めて書いた、エレン・グラスゴーにかんする一文、などがその一例です。
その他、「はじめてのアメリカ文学」のような講義録や紹介記事、ヘミングウェイ『老人と海』にかんする小文など、読者がくつろいで読めるエッセイも多く収録しました。
著者がつれづれなるままに記した文章なので、読者諸賢もつれづれなるままにお読みいただければ幸いに存じます。(おかもと・まさあき=中央大学教授・英米文学)
書籍
書籍名 | 英米文学アラカルト |
ISBN13 | 978-4-269-73055-7 |