American Picture Book Review 100
堂本かおる
フードパントリーの土曜日
フードパントリーは経済的に困窮している人たちに必要な食料を無償で提供する施設。全米各地に6万軒あり、年間5300万人が利用している。これほど浸透している施設だが、利用者は"貧困"のスティグマに悩まされる。スティグマとは、そもそもは古代ギリシャで身分の低い者や犯罪者に押された烙印を意味する。現代社会においても貧困は恥ずべきものとする概念があり、当時者はそれを内面化し、辛い思いをする。これがスティグマだ。
主人公の少女モーリーは母親とのふたり暮らし。夕食は先週からチリ(豆の煮物)ばかり。モーリーはもう飽きてウンザリしている。しかも今夜はお鍋に残った最後のひとすくい。それでもママはモーリーが好きな"ファンシーミルク"を作ってくれた。牛乳に砂糖と少々のシナモンを混ぜたもの。けれどクッキーはもうなかった。夜、ベッドの中でモーリーのお腹は空腹で鳴った。
翌日、ママはモーリーを連れてフードパントリーに行く。まだ幼いモーリーには食料支援を受けることへのスティグマはなかった。しかしパントリーの開店を待つ行列にいた、モーリーのクラスメートのケイトリンは違った。モーリーが声を掛けるとケイトリンは恥ずかしそうにうつむいた。ケイトリンの態度の意味を理解できなかったモーリーだが、ケイトリンを誘って持参したクレヨンと画用紙に絵を描いて列に並ぶ人たちに配った。大人たちも態度や言葉にこそ出さないものの、それぞれ内面にスティグマを抱えている。そんな大人たちはモーリーとケイトリンが描いたカラフルな絵によって気分をほぐされたのだった。
ようやくパントリーのドアが開いた。ママは受付で紙に名前を記入しなければならなかった。受付の人は親切だったが、ママはいつものように朗らかには笑わず、かすかに微笑んだだけだった。モーリーに「誰でもヘルプが必要な時があるのよ」と説明したママもまたスティグマを抱えているのだ。
名前の記入後にカートを渡されたママは、トマトの缶詰、桃の缶詰、乾燥豆、玄米、全粒粉のパン、オートミール、砂糖、スパゲッティ、おろしチーズ、レーズン、ツナ缶、ピーナツバターを選んでカートに入れた。ママは最後に「今夜、ファンシーミルクが飲めるね」と言いながら粉末ミルクを手に取った。粉末ミルクは安く、日持ちもする。けれどモーリーがクッキーを欲しがると、ママは「贅沢品はダメなの」と言う。涙ぐむモーリーに受付の人がクッキーの箱を渡してくれた。モーリーが描いた楽しい絵へのお礼だった。
今夏、大統領のトランプは自ら「ビッグ・ビューティフル」と名付けた法案に署名した。高所得者への減税分の穴埋めとして、低所得者対象の公的医療保険とともにフードクーポンも削減される。フードパントリーに通わなければならない人が確実に増える。アメリカはどこへ向かうのか。(どうもと・かおる=NY在住ライター)