2025/05/23号

名探偵と学ぶミステリ

編著者から読者へ=『名探偵と学ぶミステリ』(杉江松恋)
編著者から読者へ 名探偵と学ぶミステリ 杉江 松恋  『名探偵コナン』の次がない。  学校司書の方に聞いたことがある。読書相談をする中にはミステリーに関心を持つ児童も多いという。はやみねかおるはやはり偉大で素晴らしい入口になる。そこから入って児童向けレーベルを読み漁っていくのだけど、なかなか大人向けの作品には手が出ない。『名探偵コナン』のコミックスは裏表紙で古今東西の名探偵を紹介している。それで関心を持ったとしても、実際に小説を読むまでには至らないというのだ。なんともったいない。  『名探偵と学ぶミステリ』は、十代向けのガイドブックとして企画が始まった本である。大人向けのミステリーにはこんな作品があるよ、おもしろいよ、と声をかけるのが目的だ。  しかし問題があった。ガイドブックを求める読者というのは、最初からそのジャンルに関心があるのが普通だから、気が向いたら試してみなくもない、程度の読者は手に取らない可能性があるのである。それでは意味がないのだ。身構えずに読んでもらわなければ。  世界の名探偵にオマージュを捧げる短篇を現役作家に書いてもらい、その豪華さで読者に関心を持ってもらうのはどうだろうか、と思いついた。発想の元は自分がこどものころに読んだ藤崎誠(瀬戸川猛資)『世界の名探偵図鑑』(立風書房)という本だ。題名通りのガイドブックなのだが、単に名前を羅列するだけではなく、探偵の代表作が漫画や絵物語の形で紹介されていて、読物としても楽しかった。お勉強感はまったく無く、おはなしを読んでいるうち自然に知識が身に付く。これだ、と思った。  青崎有吾、阿津川辰海、斜線堂有紀、楠谷佑、辻真先、福田和代、水生大海という執筆陣はすぐに決まった。平成のクイーンと呼ばれた青崎有吾はもちろんエラリー・クイーン担当である。探偵の並びに変化が欲しいので007を入れた。冒険小説なら福田和代だろう。みなさんよく原作を研究し、驚くほどの完成度に仕上げてくださった。感謝である。  そうした短篇の合間にガイドが挟まっている。名探偵とは誰か、トリックって何だろうか、推理はなんのために行われるのか、という具合に、原点に戻ってミステリーについて考えてみた。ここはぜひミステリー上級者にも読んでいただきたい。  川浪いずみによる四コマ漫画を箸休め的に入れるなど、肩の凝らない構成を心掛けた。お気軽にどうぞ。手にとってくださった方の中から未来のミステリーファンが誕生すれば、これほど嬉しいことはない。(すぎえ・まつこい=書評家・ライター)(著者=青崎有吾・阿津川辰海・楠谷佑・斜線堂有紀・辻真先・福田和代・水生大海)

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