日常の向こう側 ぼくの内側 697
横尾忠則
2025.6.23 毎朝、起床と同時に首の痛みを確認する習慣がついてしまった。今朝はほんの少し軽いかなとは気のせいだ。
世田谷美術館の個展が終了。躰がアトリエと美術館の二ヶ所に分離されていたよう。
『新宿泥棒日記』Blu-rayボックスセットがイギリスから発売されるので、ビデオ撮影に睡蓮みどりさん、トム・メスさん来訪。大島渚監督とのエピソードを語る。
2025.6.24 午前中、トゥヴァージンズの浅見さんがY字路の画集と写真集の2冊のサンプルを持参。27日の誕生日に発売するとか。
神戸の美術館から平林さんが「髑髏まつり」展の会場構成プランを持参。
2025.6.25 朝日新聞の吉村千彰さん来訪。吉村さんは以前、書評編集長で、彼女の在籍の時に初めてビジュアル書評を発表。この時の重ね刷りの書評は全く読めなかったが話題になり、その後も何度か実験というか遊びというか、書評の視覚化を試みる。
加山雄三の『俺は100歳まで生きると決めた』を読む。彼の運命に従う生き方はぼくと共通している。病気、ケガはよく似ているが、残念ながら借金はしたことがない。
妻が玉川病院に定期診断に。血圧を下げる薬を飲んでいなかったので、心臓が相当へたってしまっていた。心臓を守ってくれる薬なので、ぜひ飲んで欲しいといわれたそうだ。妻はぼくと違って病院や薬は嫌いだが、そんなこと言っている場合ではない。医師が定期的に診断しているので、医師に従えば安心。血圧も心臓も、とにかく水分をたっぷりとるのが健康のコツである。
2025.6.26 ニューヨークの画家ホセ・パルラ夫妻が世田美の「連画の河」展を見たといって来訪。抽象表現主義的な絵画を描くが、コロナで4ヶ月間、意識不明から帰還したという奇蹟の人。ニューヨークの新しい画家友達がひとり増えた。
午後、玉川病院のコロナ担当だった森田先生を訪ねて、この倦怠感、何とかならないですかね、と相談するが、時間が解決するのではと。安心させられる。
2025.6.27 「今日は何の日だと思う」と妻に聞くと、しばらく考えて、突然「♪ハッピーバースディ」と歌い出したが、忘れていたらしい。まあ89歳という高齢になると、妻じゃないが忘れるべきかも知れないが、忘れさせない人達から花やプレゼントが沢山届き、祝ってくれる。
南雄介さんと都現美の藤井さんが恒例のデヴィッド・ボウイのTシャツ持参のお祝いに。もう2人から毎年贈ってくれるTシャツが20着になった。
アーティゾン美術館の西嶋大二さんと糸井重里さんが、作品が散逸しないための何かノウハウは?と来訪。
世田谷美術館の塚田さんが誕生祝いにと入浴剤を。近い内に展覧会の打上げの予定。
轟悠さんからはフラフラ揺れる大きい風船のプレゼント。わがスタッフからは各種アパレルファッションのプレゼント。
2025.6.28 89歳2日目。それがどうした。しゃーないから絵でも描こう。
2025.6.29 89歳の3日目は快晴。
コンビニの冷麺の不味さはコロナの味覚音痴といい勝負。
日曜は誰も来ないので近所の北沢永志さんを呼ぶ。長嶋さんの死に触れて、「長嶋さんは横尾さんと同い歳の89歳に亡くなられたけれど、享年が〝野球〟で、亡くなった3日は選手時代の背番号〝3〟ですよね」。本当だ、見事な語呂合わせだね。長嶋さんというのはこういうことまで、帳尻をちゃんと合わせる人なんだねえ。ところで7月5日の午前4時18分のフィリピン沖で発生する日本を襲う津波の予報はどう思いますか、と北沢さん。気象庁などはデマだと言っているらしいが、予言が実現してこの際日本人を反省させたらどう? 鎌倉の北沢さんの友人はヤバいと言って高地のホテルに避難したそうだ。(よこお・ただのり=美術家)