日常の向こう側 ぼくの内側
横尾忠則No.698
2025.6.30 滝沢直己さん来訪。ポスターの依頼を受ける。イッセイ・ミヤケ時代に滝沢さんとのパリコレのインビテーションデザインは、毎回変化の連続だった。元カルティエのディレクター、エルベ・シャンテスさんがヨーロッパでポスターを集めた場所の設立に興味があるかと打診していると聞く。
アトリエの2階の壁が落下したために、アトリエを新たに改造する必要が出てきたので、磯崎新さんのお弟子さんの吉野弘さんに改築を依頼することになった。
2025.7.1 昨夜就寝時にアンメルツヨコヨコという消炎鎮痛剤を大量に塗ったために、深夜に猛烈に痛み出した。何でもほどほどで度が過ぎるとよくないことを大反省する。
遅れている吉田カバンのポスターの制作に入る。シルクスクリーンのかなり変った面白いポスターができた。
2025.7.2 伊東豊雄さんの建築作品を導入した新Y字路シリーズを構想しており、伊東さんの建築作品の資料など持参していただく。従来のY字路作品はどこか土着的だが、新Y字路はかなりコンテンポラリーになりそう。
玉川病院の中嶋名誉院長が辞められて週一水曜日の午前中のみの診察になる。そんな先生を訪ねる。先生に会うと急にどこも悪くなくなる、魔術師みたい。
吉田カバンのポスターをシルク印刷で作ることになった。
2025.7.3 昨日夕方には落ちついていた首の痛みはこのまま終息状態に向かうかなと思っていたら、今朝はかなり痛む。アトリエに来客があったがソファーに倒れたままで対応できず。首は一進一退を続けている。
2025.7.4 〈過去か未来か、荒廃した原宿の交差点近くの店に知人と。2人共空腹になったので、交差点近くに昔から知っていた食堂へ買出しに行くが、一銭も持ってないので借金をする。場所変って、やはり荒廃した広い道路で、タクシーを待つが、ここはロンドンでたまにトラックが通るぐらいで、自転車のお巡りさんに道を聞こうとするが、東京への道など知るはずがない。次に立っている場所は新宿辺りだが、家などはほとんどない空地だらけで、広い道があるが、タクシーなど来る気配もないが、お金が一銭もないので家に帰ればタクシー代が払えると思うが、そんな車はどこにも走っていないという地上にひとり取り残された人間になる〉夢を見る。このようないつも絶望的な夢を見るが、意外と自分の本質を語っているように思える。
ここ2、3週間毎日来客があったが、今日は久し振りに誰もこない。絵を描けばいいのだが、やはり首が痛くて、動きづらい。首とコロナの後遺症の倦怠感は実に因果な話だ。こんな時、フト無になりたいと思う。自分を無くすることと芸術の無私はどこかで結びついているようだ。もしかしたら人間は究極的に無を希求するのかも知れない。だから死んだら無になりたいと思うのかも知れない。でも人間の本体は永久に無にはなれないのである。
明朝、津波が日本列島を襲うという予言に良くも悪くも振り廻されているが、来ないとはっきり言う人は、ではどのくらい未来のことがわかっているというのだろうか。
2025.7.5 今日の災害予言を信じて移住、内外に逃避した人はがっかりしたでしょうね。
今朝起きたら知らない猫が家の中にいてあわてて逃げ出した。まだ十代の白黒の猫でおでんよりうんと若い。
おでんはぼくのベッドルームでしたい放題なので閉め出すとトイレで寝ている。
2025.7.6 朝からjabでジャブジャブ頭を洗ってもらう。朝のシャンプーとマッサージは快適な一日になりそう。明日から三泊四日で箱根の温泉へ。目的は首の痛みと、まだ続いているコロナ倦怠感の治療。
数ヶ月振りで増田屋で、冷やし中華を。
夕方までアトリエで何もしないでソファーで終日寝そべっていた。(よこお・ただのり=美術家)