American Picture Book Review 98
堂本かおる
アリストテレスの『ニコマコス倫理学』のみならず、哲学書を一切読んだことのない私は、子ども(しかも就学前の幼児)と同じ目線でこの絵本『ハピネス~アリストテレスと共に(小さな哲学者のための大きなアイデア・シリーズ)』を読み、「自分」「友だち」「幸福」についてずいぶんと考えさせられた。加えて時節柄、否応なく現在のアメリカや世界の国々の関係に当てはめることもしてしまった。
最初のページに「哲学者って知恵を大切にする人だよ」「知恵とは、よりよく生きてハッピーになれるコトを知っていること」と大きく書かれている。アリストテレスは丘の上に佇み、腰に手を当て、空を見上げながら問い掛ける。「人生を生きる最良の道とは?」
丘のふもとでは現代の子どもたち~いろいろな人種や民族、車いすの子も~が遊んでいる。子どもも考える。何が自分をハッピーにしてくれるのだろう? オモチャ? アイスクリーム? ペットの犬? おばあちゃんのハグ?
アリストテレスは言う。ハッピーになるために一番大切なのは「友だち」だ! 次のページでは黒人とアジア系と白人の子どもが肩を組んでいる。
とはいえ、友だちにもいろいろある。「楽しい友だち」がいる。笑って、踊って、一緒にいるととっても楽しい友だちだ。アリストテレスも子どもたちのためにニコニコしながらギターを弾いている。「助けになる友だち」もいる。オモチャを貸してくれたり、一緒に空想の冒険に出掛けたりもする。けれど本当の友だちは、自分が良い人間になることを助けてくれる。自分が間違ったことをすると「間違ってるよ」と教えてくれるし、怖気付いた時には励ましてくれる。けれど誰かの本当の友だちになるには、まず自分が自分の友だちになる必要がある。つまり自分を好きになって、初めて誰かの本当の友だちになれるのだ。
今、世界を混沌に陥れている各国のリーダーたちは、一緒にダンスする「楽しい友だち」同士なのか? オモチャ(オモチャが何の比喩であるかはさておき)をシェアし合う「助けになる友だち」同士なのか? それとも彼らは「君が今やってること、間違ってるよ」と率直に言い合い、「正しいことをしなくちゃ」と励まし合う、本当の友だち同士なのか。いや、その前に、彼らはそもそも自分のことが好きなのだろうか。自分を良い人間だと思っているのだろうか。自分が治める国の国民と、世界の人々の幸福を願っているのだろうか。
著者のデュエイン・アーミテージはスクラントン大学哲学科の助教授。「小さな哲学者のための大きなアイデア・シリーズ」としてプラトン、ソクラテス、デカルト、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、孔子などの絵本を出版している。(どうもと・かおる=NY在住ライター)