2025/09/19号 6面

「読書人を全部読む!」6

読書人を全部読む! 山本貴光 第6回 人びとの読書生活  創刊号の「サラリーマンの読書生活 アパート都市・光ヶ丘にみる」を見ているところだった。ここに登場する5人のインタヴュイーは、いずれも光ヶ丘の住民で、会社や学校に勤める男性。なにより目につくのは、雑誌や新聞を除くとラジオを聴く人が多いところ。当時、テレビは普及へ向かう途中で、まだ一家に一台という状況ではなかった。  5人のうち2人は本を読まず、もっぱら新聞と週刊誌に目を通すという。残る3人は本を読む人で、そのうち1人は通勤の往復で『ジャン・クリストフ』や『チボー家の人々』といった長い小説を読むという。もう1人の理科系技術職の人が最近読んだのは『カラマーゾフの兄弟』で、普段は専門書をよく読んでいる様子。この記事を執筆した稲葉三千男は、彼らを「教養型」と分類している。残る1人は高校教師で文学が専門とのことだが、光ヶ丘に入居したことで通勤時間が長くなり、かえって読書の時間が減ったと答えている。混み合う電車では本を読みづらいということだろうか。  この調査は次号に続いており、第224号では「主婦の生活と読書」と題して、同じ光ヶ丘団地に住む女性たち5人の話が紹介されている。ここでもラジオが主なメディアのようだ。本をほとんど読まない人が2人いるのは、男性の場合と同様。ひょっとしたら報告者らが、紙面に載せる5人をそのように選んでいるのかもしれない。1人だけ「テレビを買ってから雑誌なんて読めませんね」と答えている人がいて、この人は女学校時代の愛読書についても語っている。いまなら「動画は見るけど、本は読まないですね」といったところだろうか。あとの2人は読書が好きな人で、1人は「古典を通して日本文学を系統的に読みたい」と希望を述べている。  インタヴュー中、最近読んだ本として何度か挙げられている『猫は知っていた』は、1957年11月に刊行された仁木悦子(〔作家〕/1928-1986/30)の小説で、このインタヴューが掲載された頃、島耕二監督の映画も封切られたようだ。  いまでこそ、インターネットを介して他の人たちがどんな読書生活を送っているかを垣間見る機会もある。とはいえ、具体的にどうしているのかまではなかなか見えてこなかったりもする。創刊号と次号に掲載された「読書生活」に触れて、いろいろな立場の人たちが日頃どんなふうに本を探したり買ったり読んだり読まなかったりしているのかを窺い知れるようなコーナーがいまもあってもいいかもしれないと思った。例えば、岸政彦編『東京の生活史』(筑摩書房)をはじめとする生活史シリーズではないけれど、多様な環境で暮らす人びとの本とのつきあいを紹介していくわけである。  さて、あまり創刊号だけ眺めていても、話が先に進まないわけだが、1958年当時と現在とのちがいが新鮮に感じられて、ついあれこれ目に留まるのだった。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)