2025/06/27号 7面

[図説]映画音楽の教科書

著者から読者へ=『[図説]映画音楽の教科書』(周防義和)
著者から読者へ [図説]映画音楽の教科書 周防 義和  本書は、映画音楽の劇中音楽(劇伴奏音楽)がどんな意味を持っているのか、また物語、シーンのどこに入るのか、と言った従来あまり語られることのなかった部分を図説とともに考察したテキストです。  映画音楽というとヒットした名曲の話、有名作曲家の伝記だったり、専門的な作曲理論などの本がありました。ここでは劇音楽の役割に焦点をあて映像制作、映画音楽の制作を目指している人たちから一般の方々、つまり映画に興味あるすべての方に読んでいただければと思って書き上げた一冊です。  具体的には1930年代から2010年代まで映画音楽の歴史的な価値観の変遷を巡ります。それはベタにアクションやセリフに合わせていた『カサブランカ』(1942)の劇中音楽をはじめ、ジェームズ・ディーンの名作『エデンの東』(1955)のレベル高き和声の妙味、ヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』(1958)の物語に距離感近い音楽の作風、フランスヌーヴェルバーグの先駆け『勝手にしやがれ』(1960)のジャズ風味、『タクシー・ドライバー』(1976)からはバーナード・ハーマンの作風、『パリ、テキサス』(1984)の一音入魂のスライド・ギター、『レオン』(1994)のエスニックなリズム、カズオ・イシグロ原作の『日の名残り』(1993)のミニマル風オーケストラ、『ジョーカー』(2019)のキャッチーなメロディではない距離感の遠い音楽性等々に至る歴史を辿ります。  日本映画ヴィンテージ作品からは江戸の下町長屋を舞台にした傑作『人情紙風船』(1937)、世界的名作『東京物語』(1953)、武満徹が音楽担当した『不良少年』(1961)等。また著者の周防義和が音楽担当した『Shall we ダンス?』(1996)でのダンス曲の劇音楽併用、時代劇『超高速!参勤交代』(2014)のいわゆるチャンバラシーンの音楽等、図説とともに解説。  一方で、映画のどこに音楽が入るのか?という問題の傾向を分析、19例への体系化を試みました。そこでは他の音、つまりセリフ、ナレーション、SE(効果音)との関係性にも言及してサウンドデザイン的な部分の分析にも及んでいます。劇中音楽は映像に合わせると同時に他の音との共存も考えるからです。  大学、専門学校、一般向けの講座でも行ってきた著者の映画音楽の深い部分への考察を嚙み砕いて文書化しました。映画音楽の歴史としても今までない部分を追求した一冊と言えるでしょう。(すおう・よしかず=作曲編曲家・大阪スクールオブミュージック特別講師・名古屋学芸大学客員教授)

書籍

書籍名 [図説]映画音楽の教科書
ISBN13 9784866471969
ISBN10 4866471964