2025/11/07号 7面

American Picture Book Review 102(堂本かおる)

American Picture Book Review 102 堂本かおる 雪の降る日、ある郊外の街に、日本人の母と子が越してきた。女の子は新しい自分の部屋でダンボールの箱を開け、ぬいぐるみや学用品を取り出していた。箱にはお母さんの字で「ユキ・文房具」「おもちゃ」と書かれている。 ユキが大きな窓から外を見ると、隣の家から同い年くらいの女の子が出てきて雪遊びを始めた。ユキは急いで別のダンボールを開け、黄色いスノーブーツを取り出して履いた。赤いコートも自分で着た。お母さんがピンクのニット帽を被せ、白いマフラーを巻いてくれた。 雪だるまを作っていた隣家の女の子はユキを見ると「Hello」と声を掛けた。ユキは「こんにちは」と返した。初対面の少しぎこちない挨拶を済ませると、2人はたちまち意気投合。女の子は「Let's play!」と言い、ユキは「遊ぼう!」と言う。大きな雪玉を固めるために女の子は「Push and mush」と言い、ユキは「叩いて、叩いて」と言う。庭にそびえる杉の木にキツツキを見つけると、女の子は「Peck peck」と言い、ユキは「コツ、コツ」と言う。雪だるまが完成すると、2人は雪でちょっと怖くて可愛い怪獣を作った。女の子は英語式の発音で「ゴズィラ」と言い、ユキは日本語の発音で「ゴジラ」と言い、2人で笑い転げた。 やがて寒さに震え出した2人はユキの家に行く。ユキのお母さんが「こんにちは」と言うと、女の子も「コンニチハ」と返答した。もう覚えてしまったのだ。ユキが引っ越しの荷物を包んでいた梱包紙で「折り紙?」と聞くと、女の子はすでに知っていた日本語「オリガミ!」と言い、2人で頭に被るネコの帽子を折った。外ではしんしんと雪が降り続く中、2人は暖かい部屋でお母さんが出してくれた日本茶とお煎餅を楽しみながら、最後は「Ha ha ha!」と世界共通の笑い声を上げた。 これは私の息子にも起こったことだ。アメリカ生まれで日本語を話さない息子を6歳で日本に連れて行くと、年齢の近いイトコと戦隊もののオモチャで夢中になって遊んだ。言葉は一切不要だった。10歳で再度日本に行くと事情が変わっていた。2人は一緒にゲームをした。ゲームの進行には言葉が必要と見え、息子はスマホの翻訳機能を使っていたがゲームに気を取られて焦り、スマホを放り出してしまった。 短期の日本訪問者だった息子と異なり、これからアメリカで暮らしていくユキは現地語(英語)を学んでいくことになる。どの学校にもESLがあり、移民の子供は最初は苦労するものの、やがて家庭では母語、学校では英語で生活するようになる。他方、多言語を話す友だちに恵まれた子供は、本作に登場する隣家の女の子のように言葉だけでなく、他文化をも実体験できる。多言語話者の子供は多文化共生の架け橋となり得るのだ。(どうもと・かおる=NY在住ライター)