2025/06/13号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 694

日常の向こう側 僕の内側 横尾忠則 No.694 長嶋さん不在の欠落感。ヨタヨタを生かした絵! 2025.6.2 町田市立国際版画美術館から新潟市美術館特任館長に就任された滝沢恭司さん来訪。版画展以来の交流だが、その間あまり会うことがなかったので、つもる話題が多かった。  成城の小林整形外科へマッサージに。 2025.6.3 〈郷里の西脇のレストランで卵焼きを細く切って、白菜も少々パラパラと入れて、チリメンジャコも加え、塩味風のチャーハンに紅生姜を添えてと注文すると、面倒臭がって、ただの醤油抜きの生卵ご飯を出された〉という夢。昨日、妻にオーダーしたばかりで、どうしてこんな虚実混合夢を見るんだろう。  昨日の首のマッサージの効用か、痛み半減。  今朝、長嶋茂雄さんが死去。長嶋さんと同年。以前、梅原猛原作で茂山狂言による「クローン人間ナマシマ」の舞台衣装と舞台美術、ポスターも制作。長嶋さんの座席の横で一緒に観たことがあり、その後ラジオにも招かれた。長嶋さんは実に真面目で礼儀正しい方だが、それがどういうわけか面白く、こんなユニーク(本人は意識しない)な方は他に知らない。長嶋さんの不在感は日本にとって大きい欠落感を残すのではないだろうか。  井上隆史さんが三島由紀夫展に出品していた生原稿「ポップコーンの心霊術」の返却に来訪。井上さんは世田谷美術館の「連画の河」展のカタログを持ち歩いておられ、ひとつひとつユニークな批評を述べられる。 2025.6.4 午前中、経理士の梅田さん来訪。こういうことは難しくて、妻にまかせっ切り。  妻が昔描いた絵が沢山出てきたのでぼくの絵の中に組み込んだ作品を作ることにした。 2025.6.5 〈成城の駅前、成城パンの店の辺りに「神戸市の出張所」が移転してきたのでぼくは早速訪ねる。女性の店員(?)ひとりだが、神戸のことなら何んでもやってくれるそうで、神戸行きの新幹線の切符も予約してくれる。この場所をたまり場にして、ここで仕事をしてみようと思う〉夢を見る。  糸井重里さんと菅野さん来訪。増える一方の作品の処理に困るだけでなく、今後の制作に悪影響が起こり、「困った」と思っていたら、この問題を解決してくれそうな話を持ってきてくれる。 2025.6.6 玉川病院へ定期診断に。いつも長時間待たされるが、今日は行くなり、すぐ診断してもらえる。コロナ後遺症の悩みの解決は検査や薬ではなく、結局「言葉」であった。コロナはコロナ自身の免疫が自律神経を攻撃するので、それが落ちつくまで時間がかかるという。  夕方、小林整形外科のマッサージに。  犬山市の町興しプロジェクトのために絵の制作などの依頼に応え、まずポスターを描く。この一枚のポスターが今後のプロジェクト実現に大いに役立つだろうといわれるが、このような仕事は長期計画で実践されるのだろう。 2025.6.7 〈学校の教室内で保坂和志さんとタブーについて公開対談をすることになった〉という夢を見る。  妻が可愛がっているおおぐろという野良猫がここ数日間顔を見せないので、猫は死期が近づくと身を隠すので、そのことを心配している。10年近くも来ている猫だが、病気風には見えないが、どうしたのかな。  少し動くと息切れがするのは全く動かなくなったせいかも知れない。今日からアトリエ内で歩行練習を始めた。  夕方、ヘアー・シャンプーに。 2025.6.8 コロナの倦怠感と首の痛みをかかえているが、この状態で絵が描けないかと、進行中の100号を完成させ、もう一点、挑戦してみようと思う。こんなにヨタヨタで描くのは初めてだが、ヨタヨタを生かした絵が描けるのが面白くなってきた。もう発表するチャンスもないかと思うと、好き勝手な絵が描けそうな気がしてきた。(よこお・ただのり=美術家)