日常の向こう側 ぼくの内側 714
横尾忠則
2025.10.27 〈龍宮城で浦島太郎になった疑似体験を黒澤(明)さんに語る〉夢を見るが、自分自身が浦島と一体化している感覚で龍宮城にいた時間はわずかだったが、現実時間では何百年経っていたという浦島伝説をそのまま一晩の夢時間内で体験するという、かつて一度も経験したことのない夢を見る。目覚めたあともしばらく龍宮時間が抜けなかった。
本紙の連載日記の担当編集者角南範子さんからライフワークのY字路と近作夫婦画についての取材を受けるが、自作を語るのは至難の業だ。頭ではなく肉体にまかせた作業だから言葉では語り難い。まるで第三者的になってしまう。
2025.10.28 滝沢直己さんの肖像画ポスターを描き上げる。外見のそっくりさんを描くのではなく、中身のそっくりさんでなきゃ、ただの似顔になってしまう。
TOPPAN印刷の富岡さんら5人が地下の収蔵庫をチェックに。何のため? 聞くのを忘れた。
カナダのトロントのロイヤルオンタリオ博物館での、サイケデリック展の出品作の確認に。選択がよくないので変更を指示する。
今日のドジャースとブルージェイズ戦はまるでフィクションだ。
2025.10.29 フィリップ・グラスの「MISHIMA」の映像を編集したものを見るが、全く肉体感覚の欠如したものになっている。
10/31号の本紙の小林康夫氏の「百人一瞬」に開催中の南天子画廊の個展について触れて下さっていて驚いた。以前神戸での展覧会で書いていただいたことがある。早速、当時のカタログを再読する。画廊のオーナーの青木さんから「小林さんがY字路の作品を前に夢想されていた」という、その内容を今日の「読書人」で拝読することになった。まだ面識はないがお会いできればお礼を申し上げたい。本紙での「お隣さん」なので自然に親近感を抱いている。
2025.10.30 〈成城駅前の雑踏の中で平野啓一郎くんが近くの喫茶店(現実にはない)にぼくを誘って「さっき会った女の子達が横尾さんはどうして私達から避けるの?」と言っていたよ〉という夢を見る。
進行中のイギリスの画集の装幀がよくないので修正を要求するが、頑固にNOという過剰なエゴを押しつけてくるので再度反論する。
2025.10.31 〈総天然色の人物樹化図鑑を描く計画を立てるが、完成まで数年かかりそうだが、完成は死だから未完で終っていい〉という夢を見る。
南天子画廊のオープニングは人が多く見えなかったので、再度、妻と徳永で画廊へ。昼食を近くの雪園で。数年後の画廊再開までどこか一軒を借りるのではなく、あちこちの画廊を放浪した方が面白いと余計なサジェッションをする。
2025.11.1 〈龍宮城を主題にした映画製作に入ったようだ。自作自演で自分が浦島太郎を演じるが、海中で亀の背に乗った自分はすでに老齢化している〉という浦島の連続夢を見る。
2025.11.2 昼、コンビニに行くと駐車場も店内も空っぽ。そうか、ワールドシリーズの優勝戦真最中だったんだ。ビデオで夜見るつもりで帰宅するが、信号待ちの女性がスマホで「ドジャース勝ったわよ」と誰かに話しかけているのを立ち聞きしてしまった。すると興味は別の所に移り、結果を知らないで試合をしている選手の一挙手一投足が格別に面白く見えて、ぼくが彼等の運命を握っているような予言者になったような気分がして、何もしらないで近未来に向かっている彼等を自分がまるで神の視点から見ているような気分にさせられるのだった。(よこお・ただのり=美術家)
