2025/07/18号 8面

「読書人を全部読む!」2(山本貴光)

読書人を全部読む! 山本貴光 第二回 「週刊読書人」はいつからあるのか  さて、「週刊読書人」を全部読むという、見ようによっては無謀なタイトルで連載を開始したわけだが、具体的な検討に入る前に少々前提を確認しておきたい。といってもたいそうな話ではない。「週刊読書人」という書評紙はいつからあるのか。  それこそ創刊号で、その辺りの経緯が窺える。創刊号の紙面を眺めると、天に「昭和33年5月5日(月曜日)」という日付が刷られている。西暦でいえば1958年だ。その1面に日本書籍出版協会の名前で「改題発足のご挨拶」という文章が載っていて、こんなふうに始まる。  「おまたせいたしました。「読書タイムズ」改題、新装の「週刊読書人」をお送りします」  つまり、前身となった「読書タイムズ」という書評紙があり、これを継承したのが「週刊読書人」というわけである。言われてみると、1面右上の紙名の直下に「月曜日発行 20円/(「読書タイムズ」改題)」と記されている。  先ほどの「ご挨拶」にはもう一つ気になることが書いてある。  「なお、「日本読書新聞」も本紙と合体して、業界書評新聞を一本化することにつき日本出版協会と日本書籍出版協会との間に原則了解が成立し、ただいま所要手続と細目の協議が行われておりますから、近くこのことも実現するはこびになっております」  「日本読書新聞」は現在発行されていないので、見たことがない向きもあるだろう。実際には同紙は1984年の休刊まで続いていたので、「一本化」は果たされなかったのだろうか。こうした出版団体や書評紙の歴史は、バンドや政党の結成・分裂・再結成とも似て、なかなか込み入っていたりする。この連載ではもっぱら「読書人」のバックナンバーを読むつもりではあるけれど、一度にあれもこれもとは行かないまでも、可能な範囲で日本における(あるいは世界における)書評や出版に関わる歴史にも目を向けて、少しずつ記すことにしよう。  ところで、先ほど名前が出た「読書タイムズ」は1954年創刊だから、1958年に「週刊読書人」と改題するまでの数年継続したものだった。国立国会図書館の書誌によると、1954(昭和29)年6月5日の101号から、1958(昭和33)年4月15日の222号まで発行されたと見える。100号以前はどうだったのかといえば、「全国出版新聞」という名前だった。「全国出版新聞」は戦後の1949年創刊。すでになんだかややこしい。この辺のことも折に触れて眺めることにして、いまは「週刊読書人」が戦後に創刊された業界紙から出発して改題を経た3代目らしいという大きな流れだけ押さえておこう。  目下日本で発行されている書評専門の新聞は、本紙「週刊読書人」と「図書新聞」の2紙で、それ以外にはない。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)