- ジャンル:著者、訳者から読者へ
- 評者: 能勢仁
著者から読者へ
出版流通が歩んだ道
能勢 仁・八木 壯一・樽見 博著
能勢 仁
世界の出版流通を俯瞰した。先進国トップはドイツであろう。この秘密は「ドイツ図書流通連盟」にある。この団体は業界運営である。1825年(江戸時代・文政8年)にフランクフルトで設立された全国組織である。6つの地方連盟があり、理事9人、会長は3年に1度出版社、取次、書店の順番で着任、本部職員は40人。現在の会長は弁護士である。この組織は3つの子会社を運営している。
1 エムファヴェ(MVB) 書籍データベースを運営する。従業員120名
2 フランクフルト ブッヒエメッセ フランクフルトブックフェアの運営。従業員5名
3 ドイツ書籍業学校(現:メディアキャンパス)運営 常勤講師11名非常勤40名
日本の近代出版が163年遅れていることがわかる。ドイツ特有のマイスター制度によって、ドイツでは書籍業学校を卒業していなければ、書店を開業できない。本文中に詳述。ドイツでは注文を夕方6時までにすれば、翌日朝10時には100%店頭に届く。出版流通の完成した国である。現在、フランスも80%まで到達した。
次に日本の特筆すべきこと2点に触れてみたい。
政府の書店支援が始まったことである。来店客数の減少、アマゾンによる売上減、キャッシュレス決済の増加で、3%の手数料が粗利益を圧迫等々、書店環境は最悪化した。閉店、倒産が近時多い。その上、知識欲、情報欲の強い日本人が、スマホは読むが、本は読まない民族に成り下がってしまった。
政府(経産省)は書店の状態を見かね、腰を上げた。政府の支援の観点は書店という一業種ではなく、文化産業の振興という捉え方である。経産省は書店振興プロジェクトチームを立ち上げた。業界三者と経産省で意見交換も数回もたれた。
書店不振の中、紀伊國屋書店の一人勝ちがある。10年連続黒字経営と聞いただけでも驚く。一人勝ちを検証してみよう。紀伊國屋書店の国内店舗は69店舗、1306億円の売上である。和書の業界シェアは5%である。専門書はその倍ある。好調の一因は外商と図書館業務である。紀伊國屋書店の海外戦略を見てみよう。海外店は10ケ国、42店舗、売上300億円である。海外店ナンバーワンのドバイ店を筆者は訪れた。月商1億円、従業員90名(日本人スタッフ7名)、20ケ国の言語対応は可と言う。好調の因は、店長以下日本人スタッフの教育の行き届いていることだと思った。
古書業界事情が本書の4分の1を割いて書かれていることも特色である。執筆者は日本古書通信編集長の樽見博氏である。乞うご期待。(のせ・まさし=ノセ事務所代表取締役)
書籍
書籍名 | 出版流通が歩んだ道 |
ISBN13 | 9784902251456 |
ISBN10 | 4902251450 |