2025/08/08号 5面

大学で何を学ぶか

〈書評キャンパス〉加藤諦三『大学で何を学ぶか』(川田愛珠)
書評キャンパス 加藤諦三『大学で何を学ぶか』 川田 愛珠  本書で著者は「自分の足で歩いていかなければならないところ、それが大学である」と語る。高校生活までとは異なり、大学生は日々の過ごし方を各々に委ねられる一方で、その時間の使い方に対する責任は自分が負うこととなるのだ。  本書は、1979年に光文社より刊行されたものに新章を追加して再構成されたものである。第1章では自分自身を一新する方法、第2章では講義の受け方、第3章では進路の決め方、第4章では教師から学ぶ方法、第5章では学び続ける方法について触れられている。およそ50年前に初版が発行された書籍ではあるが、現代の大学生が読んでも新たな発見があると感じる。それは著者が大学教授としての職務経験を活かして、様々なタイプの大学生を事例として挙げており、それによって読み手が文章を理解しやすいようになっているからだろう。  実は筆者が本書を読んだのは大学入学直後ではなく、就職活動を終えた大学4年生の春のことであった。これから卒業まで何をして過ごそうかと思案していた際に、偶然書店で目に留まったのが本書だ。読了後は本書に突き動かされたように、元々関心があった分野の勉強を始めてみたり、学外活動に参加をしてみたりした。ではこれほどまでに読者に影響を与える本書の魅力はどこにあるのか。ここからその魅力について2点述べていく。  1点目は繰り返し主張されるメッセージ性の強さである。本文中で著者は、大学で意欲的に過ごす方法について何度も説いており、例えば「自分の責任で周囲に働きかけていく」重要性について語っている。筆者はそれを非常に熱のこもった文章だと感じた。これらの文は後に語られる、他者に与えてもらうだけの人間から脱するべきという文章や、世間のイメージに縛られずにやりたいことをやるべきという主張につながっている。つまりただ同じような趣旨の主張を繰り返しているのではなく、「自分らしく生きるには」というゴールから逆算して、今やるべきことを著者は語っているのである。  2点目は、最終章である6章「希望をもつ強さ」に収録されている、様々な事情で頑張れない人に寄り添ったメッセージの数々である。読み手への激励だけで終わるのではなく、頑張ることのできない状況下に置かれている人たちへのメッセージが、非常に印象的であった。本章は、家庭内で常に拒絶されていた、虐待を受けていたなど、心理的に望ましくない環境下で育ってきた人たちに向けて語られている。例えば勉強や部活などで成果を上げることは評価されやすい。一方で強い心理的ストレスを抱えながら生きていることは、周囲の人も気が付きにくいことから、中々評価はされにくい。前者のように「見える頑張り」ではなく、後者の「見えない頑張り」にこそ称賛を送るべきなのではないか、と著者は語る。このような文章は心理学者でもある著者だからこそ書けるものだと感じた。  本書は一見すると大学生(特に新入生)向けと思われるかもしれない。しかし語られる内容の多くは抽象化でき、自らのキャリアについて考え直したい社会人も、本書を読むことで得るものがあると思われる。

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