書評キャンパス
水島治郎『ポピュリズムとは何か』
三田 侑
ドナルド・トランプは、「アメリカ・ファースト」のスローガンを掲げて二度の選挙戦に勝利した。日本でも、直近で行われた都議会議員選挙や参議院選挙において、「○○・ファースト」という政党名やスローガンを掲げる組織が一定の支持を得た。「○○・ファースト」は、「○○」が内包する人々を一枚岩に団結させる力を持つが、そこに含まれないマイノリティは排除され、多元性や多様性が無視される。西欧やアメリカ、日本におけるポピュリズム政党の出現と伸長、外国人や移民に対する排外主義的主張の高まりに危機感を感じる。
本書は、現代世界で最も顕著な政治現象であるポピュリズムを正面から取り上げ、その解明を試みることを目的に書かれた一冊である。ポピュリズム成立の背景、各国における歴史的展開と特徴、政治的な影響を分析し、現代デモクラシーの「隘路」としてのポピュリズムの姿を明らかにしている。
本書では、ポピュリズムを「政治変革を目指す勢力が、既成の権力構造やエリート層(および社会の支配的価値観)を批判し、『人民』に訴えてその主張の実現を目指す運動」と定義し、議論が展開される。
ポピュリズムの起源はアメリカ大陸に求められる。そこでは、社会経済上の圧倒的不平等の下で搾取される大衆から信頼を得たカリスマ的指導者が、寡頭支配層に訴えかけることにより、ポピュリズムが「解放のダイナミズム」として機能したのであった。
他方、デモクラシーの先進国である西欧においてもポピュリズムが出現するが、それらは「抑圧の倫理」としての側面を有する。極右起源のポピュリズム政党が分かりやすい例だ。興味深いことに、先進的な改革でモデル視される環境・福祉先進国においても、リベラルな価値やデモクラシーの原理を追求するがゆえに、ポピュリズムが伸長するという。例えば、デンマークやオランダにおけるポピュリズムは、イスラムが政教分離や男女平等を受け入れず後進的であると断じ、西欧的価値を侵食する脅威とみなして移民を排除するのだ。
本書を拝読する以前は、ポピュリズムは自由や民主主義に敵対するものであり、ポピュリズム政党を反民主主義的な政党と捉える思考にあった。しかし、本書は、現代ポピュリズムがそう単純なものではなく、デモクラシーとの親和性を有する「内なる敵」として立ち現れることを説明している。ポピュリズム政党の台頭には、既成政治の改革や活性化をもたらす効果が期待される一方、国民投票を通じて移民排除や国際協調の後退を推し進める力が作用するのである。その特質は、「解放と抑圧、熱狂と非難、魅力と危険の交錯するポピュリズム」という著者の表現に凝縮されている。
日本でもポピュリズム政党が勢力を伸ばしつつある。参院選の投票日、周囲に工事現場が偏在するとある投票会場の前を通りかかった。炎天下、危険な工事現場で働く人々の多くが日本人ではなかった。知人の間で政治に関して気兼ねなく話せるようになってきていると感じる一方、日本社会のマジョリティに属する特権層であるという自覚を欠き、社会を構成している一員のマイノリティを軽視する会話が耳に入るようになった。既成政治への不満と改革の欲求が高まり、ポピュリズム政党が勢いを増しつつある今だからこそ、『ポピュリズムとは何か』を理解する必要があるのではないだろうか。