日常の向こう側 ぼくの内側№683
横尾忠則
2025.3.10 頸椎専門の病院のひとつ国立東京医療センターの角田先生の紹介で、頸椎専門の辻先生の診断を受ける。レントゲンには異常がないが偽痛風とか。原因不明なので偽の痛風というらしい。痛み止め薬で経過観察しながら治るのではと。偽診断でなければいいが。院内レストランのカツカレーは全く口に合わず偽カツカレー。角田先生の部屋を訪ねて雑談の後アトリエに戻る。
佐藤愛子さんの近著と楳図かずおさんの自伝を交互に読む。堅い本はお勉強本で生き方とは無縁だけど、柔らかい本は生き方に役立つ。
2025.3.11 〈パリの画廊でグループ展に出品しているが、デザイナーの永井さんと一光さんがいる。場所変って狭い地下路地で2人のパリジェンヌがいる。ぼくの連れが2人を口説く。どうしてこんな面倒臭いことをするのだろう〉と思う夢を見る。
『22世紀の資本主義』の著者成田悠輔さんと『文藝春秋』でお金についての対談だけれど、お金に関しては白痴同様、全く興味ないと答えると、別の対談になる。面白かったのは成田さんの眼鏡が右が〇、左が□のレンズであったことかな。こういう変な眼鏡を掛ける人は芝居けのある人に違いない。
夕方、鍼治療に行く。院長先生の施術によるが、術後次第に痛くなる。
2025.3.12 深夜、首の痛みで眠られず。
午前中自宅玄関前で、『Esquire』の撮影あり。その後、jabでシャンプーとマッサージ。
午後再び『Esquire』の撮影。GUCCIの洋服着用で着せ替え人形撮影。同誌で鈴木芳雄さんの世田美の「連画の河」展の取材あり。
ロンドンのマークさんより長文の作家論を送ってくる。西洋の眼で見た横尾論だけど英語。
首と肩だけでなく頭、背中まで痛くなる。
2025.3.13 〈福岡ハカセがドストエフスキーの脚本を読むべきだと、本を嫌いなぼくにすすめる。やはり親しい作家(誰だかわからない)も同じことを言う〉夢。
〈誰か政治家の額に赤いマーカーで抽象的な絵を描くと聴衆がヤンヤの喝采を上げて喜ぶが、中々思った絵が描けずあせる〉夢。
相変らず首の痛さは改善しない。このまま治らないのでは?という不安に襲われる。
午後、朝日新聞の吉村さん、柏崎さん、星野さん来訪。Y字路についてのロングインタビューに。重要なことは全部しゃべった。
夕方、世田美の塚田さんがカタログの作品のクレジットの確認に。
風呂から上った頃から首の痛みが和らんだような気がする。あくまで「気がする」だけで怪しいもんだ。
2025.3.14 二瓶さんが大谷の絵を描いているところを撮影に。
玉川病院へ定期診断。首の痛みを訴えると漢方の痛み止めを処方されるが、痛みは止まる気配はない。内科の主治医は、頸椎炎は時間をかけて待つしかないと心細い話。今日は猛烈に痛い日だった。
2025.3.15 裏庭の桃の巨木が自死した。間もなく伐採の運命にあることを予知したのかも。自然界によくある話だ。この桃の巨木は食べた桃の種を口からポイと庭に吐き出した種が巨木になった。馬が倒れているみたいと妻。
もしかしたら生涯首の痛さとつき合うしかないかなと決心したせいか、今朝は痛みは少し違った。不治を認めた途端、少し痛みの流れに変化がでてきたようだ。開き直り治癒だ。
夕方からドジャースと巨人戦見る。大谷のホームラン。どうしてこういう日に打てるのかな。
2025.3.16 深夜に2度ばかり起きる。首依然として痛む。半ば持病化しつつあるのかな。
雨の中アトリエまで5、6分の所、10分以上かかる。途中でバイクの女性から話しかけられる。知人らしいが誰だかわからない。とんちんかんな会話で終る。
ロンドンのマークさんから送られてきたT&Hの作品集の掲載作品の変更を検討する。雨で買物に行けないのでお餅の弁当持参。
ドジャース阪神に負け、阪神メジャーに2連覇。阪神チームごとメジャーになるといい。(よこお・ただのり=美術家)