栃と餅
食の民俗世界を注意深く眺めてみると、「生存のための食」「儀礼のための食」「楽しみのための食」という構造の骨格が浮上してくる。このフレームからおのおのを見つめるとき、「始原の食」ともいうべき古層の匂いをまとった食物、個人の生命力を強化する儀礼食、家族の絆を結ぶ食、ムラびとたちとの紐帯を深める食、先人たちの食に関する伝承知、この国の人びとの食に関する嗜好の伝統などが徐々に姿をあらわしてくる。本書に見える食の風景は、氾濫するファーストフード、飽食の日常化、その果てにあるグルメブームとは趣を異にするものである。いま改めてこの列島に生きてきた先人たちの培ってきた食の民俗世界に目を凝らしてみよう。
著者 | 野本寛一 |
出版元 | 岩波書店 |
頁数 | 299頁 |
発行日 | 2005-06-24 |