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【読書人WEB特別編】梅澤亜由美・大木志門・掛野剛史・山岸郁子編『「文豪とアルケミスト」を本気で考えてみた』(ひつじ書房)編者座談会

【読書人WEB特別編】梅澤亜由美・大木志門・掛野剛史・山岸郁子編『「文豪とアルケミスト」を本気で考えてみた』(ひつじ書房)編者座談会

実在の文豪たちをモデルにしたキャラクターが活躍するゲーム「文豪とアルケミスト」(通称「文アル」)。二〇一六年にリリースされ、来年十周年を迎える人気ゲームで、プレイヤーは文豪たちの魂を転生させる能力を持つアルケミスト〝特務司書〟として、文学の世界を守るべく戦う。

アニメや舞台、ノベライズなど、さまざまな形でコンテンツ展開されている「文アル」を近代文学・文化研究者たちが多彩な側面から〝本気〟で論じたのが、梅澤亜由美・大木志門・掛野剛史・山岸郁子編『「文豪とアルケミスト」を本気で考えてみた』(ひつじ書房)。全一四本の論考を収録する本書の刊行を機に、編者の四名にお話しいただいた。

2025年12月5日号8面収録の座談会の一部を、読書人WEBに掲載する。(編集部)

※本紙と併せてお楽しみください

読書人WEB特別編

■「文学史」を編み直す

山岸 私たちが習ってきた文学史はやはり権威によって選ばれ、作られたものです。重要な作家であっても、島田清次郎などは文学史に登場しない。ですが、文学史という檻から文豪たちを解き放ったのが「文アル」です。ユーザーが自分たちなりに作家の背景や作品に繋いでいくと、今までとは違う形の文学史が表れるかもしれませんね。

大木 現在の文学研究が、既存の文学史によって、「これが正しい文学である」と規定されすぎている側面は否めません。たとえば久米正雄は芥川とも親交があり、重要な作家であることは間違いがないのに、研究上ではあまり重視されてこなかった。それが「文アル」の人気を受け、また新たな視点から読み直されることで、作品や研究的な価値が変わっていく可能性があります。

掛野 ひっくり返すまではいかないけれど、当たり前として見ていた文学史を相対化するような、新しい視点を誕生させる芽が「文アル」にはある気がします。また、本書全体を読んで改めて感じたことでもありますが、近代文学研究はまだまだ研究されるべき作家や作品がたくさんあります。これまでの研究においては評価が高くなかったのかもしれないけれど、新しい視点でみることで浮かび上がってくるものがあるでしょう。そこを確かめること含め、近代文学研究者はもっといろんな対象をいろんな方法で研究をした方がいいと、自戒をこめて思いました。

「文アル」を手がかりに「文学」を考察する

大木 「文アル」を扱った本書では、ゲームというメディアが研究対象になっています。デジタルゲーム研究はアカデミズムの中で今、少しずつ確立されている分野で、まだ明確に方法が規定されているわけではありません。経済的・社会的影響のような社会学に関わる視点から論じられることも、コンテンツツーリズムのような観光学の分野で注目されることもある。ゲーム内のストーリーや物語という形式自体の意味を考えるのであれば、物語学や分析哲学などもその範疇です。さまざまな分野がゲーム研究を試行錯誤で行っている中で、本書は近代日本文学・文化の研究者が自分の得意分野から試行錯誤しつつ、「文アル」について考察した論集になります。

梅澤 「文アル」を論じてはいるけれど、本書の柱になっているのは「文学」だと考えます。全体を読むと、近代文学をめぐる現在の研究状況がよく分かる。しかも、「文アル」が多様な形でメディアミックスされているので、広がりのある論考ばかりです。「文アル」ユーザーでなくとも、文学に興味ある人は面白く読めるのではないかと思いますし、何より近代文学研究の多様性を感じられる一冊になっています。

大木 「文アル」のユーザーは勉強家なので、その人たちに研究的・批評的な目線で本書を読んでもらえると嬉しいです。また本書は広く言えば現代サブカルチャー研究の論集であり、最近注目されている推し活やファンダム研究とも繫げて考えることができる。「文アル」ユーザー以外も楽しめる内容になっているので、ぜひ、様々な関心を持った学生や研究者にも手に取ってもらえると嬉しいです。

(おわり)

★うめざわ・あゆみ=大正大学文学部教授・日本近代文学。著書に『増補改訂 私小説の技法―「私」語りの百年史』(勉誠出版、二〇一七)、論文に「広津和郎作品における〈私小説性〉の比較検討 ―「師崎行」「やもり」と「兄弟」三部作を軸として」(「國文學踏査」三〇、二〇二三)など。

★おおき・しもん=東海大学文学部教授・日本近代文学。著書に『徳田秋聲と「文学」』(鼎書房、二〇二一)、編著に『高村光太郎作品アンソロジー 戦争への道、戦争からの道』(田畑書店、二〇二五)など。

★かけの・たけし=武蔵野大学文学部教授・日本近代文学。編著に『菊池寛短篇アンソロジー ヒューマンインタレストとしての小説』(編著、田畑書店、二〇二四)、共著に『水上勉の時代』(共編、田畑書店、二〇一九)など。

★やまぎし・いくこ=日本大学経済学部教授・日本近代文学。論文に「『文壇』の力学についての一考察」(「語文」一七六、二〇二三)、「文学館、文豪、そしてほんとうの『資源』とは」(「早稲田文学」一〇三四、二〇二〇)など。

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