お知らせ
【What’s New!】週刊読書人2024年4月5日号
【特集】
蓮實重彥氏に聞く(聞き手=伊藤洋司)
グリフィス/ヒッチコック/シーゲル
『ショットとは何か 実践編』(講談社)刊行を機に
【本紙イントロより】
映画批評家・フランス文学者の蓮實重彥氏の『ショットとは何か 実践編』(講談社)が三月一八日に刊行された。書き下ろしも含めた一七本の映画批評が収められた待望の映画論集である。刊行を機に、蓮實氏にお話をうかがった。聞き手は中央大学教授の伊藤洋司氏にお願いした。(編集部)
本号(4月5日号)1~3面では、蓮實重彦氏の新刊『ショットとは何か 実践編』(講談社)をめぐって、お話をうかがいました。聞き手は、本紙「映画時評」を担当している、中央大学教授・伊藤洋司氏です。本書は、2022年春に出版された『ショットとは何か』の続編であり、書下ろしの1本を含めて17本の論考が収録された、待望の映画論集となります。
そもそも、前作で「ショットとは何か」と問いながら、「ショットというものの定義はできない」という話をしていました。今回は、実際の映画のショットにあたりながら、ショットについて具体的に考えていったという蓮實氏。本書に収められた多くの映画批評は、今や〈伝説〉ともなっている雑誌『ルプレザンタシオン』や『季刊リュミエール』に収められたものです。学生時代に、両誌の愛読者だった伊藤氏だからこそ聞くことができる話が満載です(トータル文字数1万4500字)。
話題はまず、グリフィスの話からはじまります。グリフィスの「偉大さ」に改めて目を向け、今一度『ドリーの冒険』を見直さなければならないと、蓮實氏は強調します。また、本書で蓮實氏は、アンドレ・バザンに対して「決着をつけたいと思って」いたと述べます。「反=バザン論者」として、蓮實氏は何を語るのか、是非お読みいただければ幸いです。
つづいて論じられるのは、ドン・シーゲル『殺し屋ネルソン』です。初めて見た時の感動を思い起こしつつ、その映画に「古典映画が息づいている瞬間」を見逃してはならないと語ります。
その他、ヒッチコックのふたりのヒロイン(ジョーン・フォーティーンとキム・ノヴァック)に寄せる思い、ヴェンダース『パリ・テキサス』、エドワード・ヤンの『牯嶺街少年殺人事件』、クリント・イーストウッドの西部劇、ロベール・ブレッソンの『スリ』について、議論が交わされます。シネフィル必読の対話です。
つづいて本号8面では、北海道大学教授・金成珉(キム・ソンミン)氏と、ミュージシャン・音楽プロデューサーの近田春夫氏の対談「日本と韓国の音楽を語りつくす!」を掲載します。『日韓ポピュラー音楽史』(慶應義塾大学出版会)刊行記念トークイベントのレポートです(構成=長瀬海)。ポピュラー・ミュージックについて、K-POPとJ-POPの影響関係、違いについて等々について、興味深い話の連続です。特に惹かれたのは、金さんの次の発言です。
「〔70年代80年代の抑圧的な時代を経て=編集部註〕韓国の人々は既存のものへ『ケンカ』を売るようになりました。しかし、彼らは一人じゃなかった。外の世界には同じように『ケンカ』を売っている人がたくさんいました。その一つが、アメリカのブラックミュージックだったわけです」。
書評面からは、各面1本ずつご紹介いたします。
本号には、月1回の論壇時評が掲載されています。筆者は橋爪大輝さん(山梨県立大学准教授)。『世界』四月号の特集「人権を取り戻す」を取り上げながら、日本の「人権談義」で見落とされがちな点を指摘します。また、橋爪さんが引用した村上靖彦さんの次の言葉は、多くの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。「相手の言葉を聴き続ける忍耐も、相手の経験の厚みを尊重する気づかいも、状況の複雑さを受け止める寛容も消えてしまう。対話と経験の時間がショートカットされる」(「論破のリズム、スキルの時間」『中央公論』四月号)。
次に4面からは、山田紀彦編著『権威主義体制にとって選挙とは何か』(ミネルヴァ書房)。先般のロシアの選挙を見ていて、不思議に思っていたことがある。プーチンは(独裁者なのに)なぜ選挙などというまどろっこしいことをやっているのか。その疑問に見事にこたえてくるのが本書であることを、本書評によって理解することができた。冒頭2段目の言葉を引用する。
「ひとつは選挙で勝利することで体制の正当性を内外に顕示することができるからだ。これによって、反体制派を暴力の行使といったコストのかかる手法に頼らずに抑圧することができる。次は、選挙を通じて、体制に対して忠誠心を持つ、持たない勢力を確認することができるためだ。最後には、こうした情報をもとに利益やポストを配分することで、求心力を高め、野党の一部を取り組むことができるためである」。
つづいて5面から。松本薫著『火口に立つ。』(小説「生田長江」を出版する会発行)。評者は岡野幸江(人間総合科学大学講師)。舞台は、明治末から大正、昭和へとつづく1910年代から20年代。日本初の女性自身による雑誌『青踏』が創刊された1911年の春、南原律という女性が、生田長江の家を訪ねて来るところからはじまる。この生田は、平塚らいてう(非常にどうでもいい話ではあるが、平塚は私〔メルマガ執筆者〕と誕生日が同じ日なので、なぜか親しみの念を持っている)に『青踏』発刊を働きかけた人物である。
生田の家には、佐藤春夫や与謝野晶子らが集まり、また堺利彦、大杉栄、伊藤野枝といった友人らとも交流を持った。「こうした人々の繰り広げるドラマは歴史叙述を越えたダイナミズムがあって一気に読ませる力となっている」(岡野)。激動の時代、社会が目まぐるしく変化していく中で、女性たちはいかに思考し、行動を起こしていったのか。書評を読んでいるだけで読みたくなる一冊です。なお、タイトルの『火口に立つ。』が何を意味するか。本作品の重要なポイントとなるという。
最後に、6面から、小林晃著『わが〈アホなる〉人生』(石風社)。評者は吉井千周さん(富山大学准教授)。著者は、かつて中村哲さん(2019年亡くなった医師)と行動を共にし、現在は徳之島で離島医療に従事している人物。その自伝が本書である。「わしゃバカじゃけんね」と語った中村さんから、著者・小林さんが何を学び、現在の医療活動に生かしているのか。「その意思はペシャワールから遠く離れた徳之島で、今もしっかり受け継がれている」(吉井)という。
7面の連載からは、横尾忠則さんの「日常の向こう側 ぼくの内側」より。毎朝庭にやってくる〝オオグロ〟と名付けられた野良猫について。朝食となるエサが出されるまで、「大人しく待っている」という。写真も掲載されているが、やはり「太り過ぎ」に見える。10キロぐらいはあるように見えます。
(A)
【今週の読物】
▽『日韓ポピュラー音楽史』(慶應義塾大学出版会)刊行記念対談(金成玟×近田春夫)(8)
▽論潮〈4月〉(橋爪大輝)(3)
▽文芸〈4月〉(柿内正午)(5)
▽著者から読者へ『医療現場の英語表現』(田中芳文)(7)
◇連載=「映画の政治性」(ジャン・ドゥーシェ氏に聞く)(聞き手=久保宏樹)(5)
◇連載=〈書評キャンパス〉神谷美恵子著『こころの旅』(谷口夏葉)(5)
◇連載=日常の向こう側 ぼくの内側(横尾忠則)
(7)
◇連載=American Picture Book Review(堂本かおる)(7)
◇連載=百人一瞬 Crossover Moments In mylife⑩・高橋康成(小林康夫)(7)
【今週の書評】
〈3面〉
▽ジム・ダウンズ著『帝国の疫病』(田中智彦)
〈4面〉
▽竹本研史著『サルトル 「特異的普遍」の哲学』
(小林成彬)
▽山田紀彦編著『権威主義体制にとって選挙とは何か』(吉田 徹)
▽萬代悠著『三井大坂両替店』(田中秀臣)
〈5面〉
▽中川克志著『サウンド・アートとは何か』(小沼純一)
▽松本薫著『火口に立つ。』(岡野幸江)
〈6面〉
▽沼口隆・安川智子・齋藤桂・白井史人編著『ベートーヴェンと大衆文化』(多田純一)
▽小林晃著『わが〈アホなる〉人生』(吉井千周)
▽宋恵媛・望月優大著/田川基成写真『密航のち洗濯』(大和裕美子)
ベストセレクション【蓮實重彥】発売開始
週刊読書人2024年4月5日号の特集に関連して、過去60年間の読書人で特集・掲載された蓮實重彥氏の対談や記事をパッケージにして販売いたします。
パッケージ収録号 内容一覧(8本)
①[2757]2008年10月3日号
蓮實重彦氏に聞く(聞き手=伊藤洋司)
<21世紀の映画批評>
『映画論講義』(東京大学出版会)『ゴダール マネ フーコー』(NTT出版)刊行を機に
②[3046]2014年7月4日号
蓮實重彦・渡部直己・菅谷憲興鼎談「シャルル・ボヴァリーは私だ」
―『「ボヴァリー夫人」論』(筑摩書房)刊行を機に
③[3076]2015年2月6日号
蓮實重彦・伊藤洋司対談<映画を「人類」から取り戻すために>
アンドレ・バザンからドゥルーズに受け継がれたもの
④[3124]2016年1月22日号
蓮實重彦インタビュー(聞き手=伊藤洋司)
原節子と日本の名女優
⑤[3182]2017年3月24日号
蓮實重彥氏に聞く(聞き手=伊藤洋司)
<鈴木清順追悼>
⑥[3440]2022年5月20日号
追悼・青山真治(蓮實重彥氏に聞く/聞き手=伊藤洋司)
<真に孤立した映画作家>
⑦[3455]2022年9月2日号
蓮實重彥氏に聞く(聞き手=伊藤洋司)
<ジョン・フォードに恋をして>
『ジョン・フォード論』(文藝春秋)刊行を機に
⑧[3534]2024年4月5日号
蓮實重彥氏に聞く(聞き手=伊藤洋司)
グリフィス/ヒッチコック/シーゲル
『ショットとは何か 実践編』(講談社)刊行を機に