2025/12/26号 6面

過疎ビジネス

過疎ビジネス 横山 勲著 横山 勲  「地方自治」と聞いて、何が思い浮かぶだろう。「特に何も……」と素っ気ない声が聞こえてきそうだ。つい数年前まで私もそうだった。  地方自治は「民主主義の学校」と言われる。地域の課題を知り、みんなで知恵を出し合って解決する民主的なプロセスが、ひいては社会全体のあるべき姿を見いだすことにつながる。地方自治とは、自由で平等な社会を下支えする仕組みだ。  しかし、その土台は至る所でさび付き、腐食が進んでいる。福島県国見町で2022年度に計画された地方創生事業を追った2年間の取材を通じ、そう思うようになった。  国見町は匿名で寄せられた4億3200万円の企業版ふるさと納税を財源に高規格救急車を12台も購入し、自分たちでは使わずに他の自治体にリースする地方創生事業を始めようとしていた。  事業を受託した宮城県多賀城市の防災ベンチャー「ワンテーブル」の主力事業は備蓄用ゼリーの製造販売で、地方創生コンサルタントにも手を広げていたが、救急車メーカーではなかった。  ワンテーブルは救急車ベンチャーの「ベルリング」と提携していた。ベルリングはIT大手DMM.com(東京)のグループ会社だ。そして国見町は企業名を伏せ続けるが、事業原資を企業版ふるさと納税で匿名寄付したのはDMMグループだった。  企業版ふるさと納税は、地方創生の財源不足に悩む自治体向けに国が創設した制度で、寄付額の最大9割が法人関係税から控除される。自治体に寄付をした企業のグループ会社が、その寄付金を使った事業を受注すれば、利益を囲い込めてしまう。  取材の過程で、国見町の事業を主導したワンテーブルの前社長が社外の関係者に舞台裏を語る音声データを入手することができた。生々しい本音が記録されていた。 「(企業版ふるさと納税を使った事業は)超絶いいマネーロンダリング」 「無視されるちっちゃい自治体がいいんですよ。誰も気にしない自治体」 「(地方議員は)雑魚だから。俺らの方が勉強してるし、言うこと聞けっていうのが本音じゃないですか」  浮き彫りになったのは、言葉巧みなコンサルタントが暗躍する地方行政のお粗末な実態であり、主体性なき官民連携の落とし穴であり、誰もが地域課題に無関心な「お任せ民主主義」がはびこる地方自治の危機だった。  「雑魚」と呼ばれた国見町議会は、住民たちの叱咤激励を受けて奮起した。議会に調査特別委員会(百条委員会)を設置し、真相究明に尽力した。そのかいあってか、内閣府は2024年11月に国見町の事業に不正を認め、対象となる町の寄付計画の認定を取り消した。企業版ふるさと納税制度は規制強化が図られることになった。  申し遅れたが、私は宮城県仙台市に本社を置く東北のブロック紙『河北新報』の記者だ。一連の取材の顚末をまとめた拙著『過疎ビジネス』は、今にも消え入りそうな地方自治の灯を守りたい思いで書き下ろした。私はこの先も自由で平等な社会で暮らしていたいからだ。(よこやま・つとむ=河北新報編集部記者)(二六四頁・一一〇〇円・集英社)

書籍

書籍名 過疎ビジネス
ISBN13 9784087213737
ISBN10 4087213730