2026/02/06号 7面

日常の向こう側 ぼくの内側 725(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 725 横尾忠則 2026.1.19 玉川病院に緊急入院していた妻が退院することになった。退院に際して看護師よりの注意項目、心臓を守る薬4錠は必ず飲むこと。心不全手帖に毎日の身体状態を記録。体重は2㎏増の場合は心臓が悪くなっている可能性あり。減った場合は脱水の可能性。足のむくみ、息苦しい症状は早めに連絡。食事は減塩。ぼくも心臓に欠陥があったので注意事項は同じ。全部約束するとは思わないけど。 2026.1.20 ニューヨークから帰国している平野啓一郎くんが今夜発つので、昼にとんかつを用意する。毎日が変化の連続らしいが、こちらはほとんど毎日が五十歩百歩。何の変りばえもなく、心は二つ身は一つ。目下のニューヨークの街は荒れて汚いそうだ。60年代のニューヨークとそっくりかな。新聞が道路に舞い上り、犬の糞。  おでんは前回の入院時より、少しは元気になったかな。でも相変らずガリガリ亡者。 2026.1.21 おでんが食後すぐに躰を垂直にしてエサを胃に落とす立て抱っこ作法をするが、逃げ廻るおでんを追う老体もつらい。  イッセイ・ミヤケのエイポックシリーズを宮前さんがぼくの絵を使って次々とデザインしているが、ヨーロッパでは大人気。  夕方から朝日新聞の書評委員会に久し振りに出席。夜の外出は厳しい。書評委員の顔見知りも少なく、なんとなく淋しい。今回の弁当はおせち料理のように二段構えで豪華。持ち帰って家で食べる。 2026.1.22 〈鶴田浩二をモデルに写生大会のようなことをしている〉夢。  昨日、朝日新聞で会ったばかりの書評担当編集者の星野さんが、ちょっと原稿で相談することがあると来訪。 2026.1.23 jabでヘアーカット。加藤登紀子さんの写真を持って行って、この通りにと注文する。  夕方まで絵を描く。どの絵もこの絵も匿名的で誰の絵かわからない。本来の絵は匿名的なので、これでいい。  おでん定期入院で、自宅と病院の二重生活。 2026.1.24 朝日の書評は珍しく3本入稿する。  大相撲14日目。二敗一人だった安青錦、ニガ手の大の里に負け、明日の千秋楽は大混戦になる。 2026.1.25 大阪国際女子マラソン。  新大関安青錦優勝。熱海富士を投げとばした瞬間思わず歓声と万歳。 2026.1.26 おでんは毎週金曜日の夕方から日曜日まで点滴を受けるために入院。 2026.1.27 〈画家の李禹煥さんと徳島に移住する。徳島を面白くしたいねと思う〉夢を見る。  ビジネス社の山浦さんとインタビュアーの小笠原さん来訪。語り下しの単行本の企画だが、今まで他で語った内容ばかりの質問と、インタビュアーの個人的な発言が多く、まとまりの悪い本になりそうなので、中断する。 2026.1.28 国技館の土俵上で観客4000人を対象に岡田准一さんとトークをする依頼。以前、貴ノ花の断髪式で土俵に上った時、四方からの観客の視線の恐ろしさは二度と味わいたくないのでお断り。 2026.1.29 カタールの王族でカタール博物館館長の殿下(女性)がオンラインで面会したいとの要請。どんな話になるのか、面白そう。 2026.1.30 アトリエへ行く途中、突然、胸が痛く歩けなくなってしまった。急遽玉川病院へ徳永と。救急治療室で点滴を受けるやら心電図の検査など循環器内科と腎臓内科の先生が駆けつけて色々治療を受ける。いつもの個室が空いていないために入院は断る。3年前の急性心筋梗塞の経験があるので心配されたが、それとは無縁と検査でわかるが、歩行は困難。土日月は自宅でなるべく動かないように指示される。  ぼくに代っておでんが池田動物病院に点滴入院をする。  夜になって急に耳が圧迫されて難聴とは別に、自分の声も聴こえなくなる。月曜日に東京医療センターの耳鼻科を予定。 2026.1.31 〈おでん、ベッドの上で丸くなって寝ている〉夢を見る。おでんの願望かぼくの願望か、両者の願望だろう。  終日ベッドの中で黒澤明監督の「赤ひげ」を観る。前後編4時間近い作品。観た記憶があるがあまり観た記憶がないのにがっかりしてしまう。 2026.2.1 ベッドの中で別府大分毎日マラソンを見る。(よこお・ただのり=美術家)