2026/06/19号 4面

南西諸島の軍事化

南西諸島の軍事化 池尾 靖志著 前泊 博盛  戦後81年、日本は戦後から新たな戦前へ大きく舵を切り、平和憲法が封じてきた武器輸出や敵基地攻撃など武力行使を可能にする「軍事・軍拡国家」へと大きく変貌している。  本書は、基地反対世論の封殺による自衛隊の南西諸島シフトを縦糸に、軍事化のための「脅威(北朝鮮、中国)」の創出、脅威の喧伝、軍拡の推進など最新情報をテーマごと時系列で整理し分析し、その危険性を浮き彫りにした労作である。  戦後日本の軍事化は冷戦後の1996年以降に加速した。その端緒は北朝鮮の核・ミサイル開発に始まり、中国による第三次台湾海峡危機、尖閣沖漁船衝突事件、与那国上空への防空識別圏設定、中露朝の軍事協力の深化などの「脅威」の構築と喧伝によって作られてきた。  南西諸島への自衛隊配備強化は、周到に準備された脅威によって進められている。自衛隊基地建設に反対する住民の声は「周縁化」され、自衛隊基地建設や防衛施設の建設という新たな公共事業の展開によって地域経済に深く入り込んでいる。  「特定利用空港・港湾制度」の導入は、「民間インフラの軍事化」を加速している。全国各地に地対艦ミサイル部隊、自衛隊オスプレイ配備、日米共同使用施設の拡充が進んでいる。安保関連三文書の改定で、従来の三倍にまで膨らんだ弾薬製造に合わせ130を超える弾薬庫の建設も全国で始まっている。  終戦後活躍した政治学者の丸山眞男は、アジア太平洋戦争の災禍の教訓として「端緒(発端)に抵抗せよ、終末を考慮せよ」とのドイツの牧師マルティン・ニーメラーの警告を引用し、戦争につながる些細な兆候を見逃さず、歯止めをかけるよう警鐘を鳴らした。  だが、本書を読む限り、時はすでに端緒をはるかに超えている。「批判を許さない社会的雰囲気」(第六章)の中で、反基地運動の「周縁化」による地域社会の分断で、「列島を覆う軍事化」(第五章)は加速し、歯止めは困難な状況となっている。軍事化の流れは「日米防衛協力の変遷」(第二章)で5段階に分けて詳述、明解に分析されている。  経済的視点を加えると軍産官学複合体の強化で「軍需産業依存」経済化が加速している。反軍拡・反基地の抵抗運動は「地域振興優先」の全体主義の中で封じられつつある。国家的利益の追求という大政翼賛的流れの中で、望まぬ戦争に引きずり込まれ、国民は命と財産を奪われる悲劇に巻き込まれる。そんなアジア太平洋戦争前の社会状況が、本書の随所に歴史的既視感として漂っている。  81年前、激烈な地上戦で多大な犠牲を強いられた沖縄は、戦後も米軍統治下に置かれ、戦後の平和憲法の外=「憲法番外地」に置かれた。自治権、選挙権、基本的人権、生存権すら否定された。「日本国憲法の庇護の下へ」と本土復帰運動を展開し、27年間の米軍統治から抜け、54年前にようやく日本国憲法の庇護の下に入ったはずだった。だが、復帰後も米軍専用施設の70%以上を背負わされ、2015年以降は自衛隊基地の新設・強化という「新たな基地負担」が、これまで米軍基地のなかった宮古、石垣、与那国など離島地域にまでのしかかっている。  なぜ南西諸島は軍事化されなければならないのか。軍事化は、だれのための、なんのための、何から何を護るために必要なのか。本書は「国民保護」(第四章)で、有事の際の政府の国民保護・避難計画の非現実性と虚構性にも論及している。  国民の多くは「台湾有事は沖縄有事」と、傍観者的好戦(交戦)論に酔いしれ、自分たちは安全圏にいると錯覚し、地域経済を軍事で左右される南西諸島の住民の「当事者的非戦論」には耳を貸さずに来た。  だが、高市発言で拍車がかかる中国の対立、中朝の軍拡、核ミサイルの増産や34発の核弾頭の実戦配備により日中関係は核危機の時代にまで一気に加速している。その中で、いかに「戦後」を死守するか。時宜を得た本書の「日本の安全保障国家化と平和の課題」(終章)で熟考してほしい。(まえどまり・ひろもり=沖縄国際大学教授・安全保障論)  ★いけお・やすし=立命館大学非常勤講師・国際関係論・平和学。著書に『平和学をつくる』『自治体の平和力』、共著に『地域から平和をきずく』など。一九六八年生。

書籍

書籍名 南西諸島の軍事化
ISBN13 9784911256442
ISBN10 4911256443