読書人を全部読む!
山本貴光
第40回 文部省の図書選定問題再び
1959年の9月から10月にかけては、1面に「目録制度」「文部省の図書目録」という言葉が繰り返し登場している。具体的には、290号(9月7日)、293号(9月28日)、294号(10月5日)、296号(10月19日)と9月と10月の都合8号のうち半分を占めるほどだ。「読書人」がこれほど力を入れて報じたのはどのような問題か。ことの起こりはその年の春に遡る。
1959年4月に文部省が「図書選定制度」についての省令を公布した。文部省が青少年に対して良書を選んで示すというわけだが、これに対して出版社の団体である日本書籍出版協会(書協)が反対の声明を出す。「読書人」でも何度かにわたって反対キャンペーンを張った様子については、以前本連載でも眺めてみた(第32・33回)。
以上が前段で、9月10月の紙面にて報じられた「目録制度」はその続きである。文部省の「図書選定制度」は出版業界や世論の批判を受けて一度は頓挫したかのように見えた。だが、同省は9月7日に「青少年の読書指導のための資料の作成などに関する規程」、通称「図書目録制度」という新たな省令を公布する。ついでながら、この正式名称でネットを検索すると、デジタル庁による「e-GOV法令検索」で条文を閲覧できる。
その趣旨はといえば、「文部大臣は、おおむね十八歳までの者(当分の間、おおむね十五歳までの者)を対象として発行された図書(教科書、学習参考書、辞書などを除く)につき、社会教育審議会の議を経て健全な青少年の育成上有益な図書の目録を作成し、配付する」という次第。(本誌293号、1959年9月28日掲載の「図書目録制の要点」から)
先ほども名前を挙げた書協はこれについても検討を加え、「この省令は先きにわれわれが反対した選定制度と何等変ることなく、いわゆる選定図書の目録であって、数回申入したわれわれの意志が依然として無視せられたものであると認めざるをえません」(9月18日発表の声明書/本誌293号から)と反対を表明する。その経過と混乱の状況については293号1面に詳しいのでご覧いただくとして、これに続く号で展開された批判を見ておこう。
一つは294号掲載の宗像誠也(1908―1970/51/東京大学教授・教育行政専攻)によるもので、「文部省が図書の選定をするのは、ズバリそのまま言論統制である。これはきわめて明白なことである」という指摘。宗像は、毎日新聞に掲載された文部省社会教育局長の「言論統制になるかどうかは、今後の目録制度のやり方をみてからにしてもらいたい」という発言にも触れて、「冗談ではない。なるかどうかどころではない。それはもうはじめから言論統制であるのである」と畳みかけている。
また、296号で滑川道夫(1906―1992/52/成蹊学園教育研究所長・教育評論家)は、文部省が公開した「図書目録」の内容を踏まえた上で、どんな本が選ばれたかではなく、文部省がやるべきことではないという点が問題の本質であると前置きし、「言論統制・出版統制への危険な接近の可能性をもつ制度」であることを批判している。戦前・戦中の苦い経験がまだ人の記憶にあった時代のことである。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)
