日常の向こう側 ぼくの内側No. 713
横尾忠則
2025.10.20 〈外でアジアの人達と会ってホテルに戻ると徳永と相島が部屋で待機していて、瀬戸内さんの台本でぼくが演歌歌手で出演することになっているので早く返事をする必要があるという。90歳目前で歌手デビューかという夢を見るが、目覚めてもしばらく、何を歌おうかなと考えている。やっぱり「網走番外地」がいいかなと思っている〉間に完全に目が覚めた。
フィリップ・グラスの「MISHIMA」の舞台美術に三島の絵を使って演出をと依頼されるが、プロデューサー不在のかなりいい加減な演出。それにしてもチラシを作ったりメディアに予告して既成の事実を作り上げての強引さにあきれはてる。
2025.10.21 アーティゾン美術館でコレクションされる作品について徳永がミーティングに行く。
ベルリンで1ヶ月後に開催されるポスター展のカタログのダミーが送られてくる。1000点収録されている500ページ大のカタログだが、こうして1000点をペラペラとめくると、数に圧倒されるだけで、無駄な時間を過ごしたもんだと嘆きたくなる。
2025.10.22 〈新幹線で前の座席のフランス女性がすでに別れた映画俳優の前夫と偶然車内で会い、泣きっぱなし。その夫はぼくに、最初から結婚する気はなかったんだ、と語る〉夢を見る。
〈誰かがぼくに「君の中の宇宙意識が出過ぎると人と交流しにくくなるよ」と忠告する〉という夢を見る。
〈西脇の実家で妻がニワトリを飼いたいというので、飼い方を教える〉夢を見る。
トゥーヴァージンズ社の超大型ポスター集70部にサインをする。
夜、ベッドの中でインド映画「バーフバリ」を観る。荒ぶるシヴァ神は映画の限界に挑戦。
2025.10.23 〈その昔、マネの「草上の朝食」の小品が電車の網棚から盗まれた人がいたが、20年後にあの作品はマネではなく自分の作品だったと告白したが、未だに見つからない〉という夢を見る。
ファッションデザイナーの滝沢直己さんから依頼されているポスターで彼の肖像画を描く。描いている内に手が4本になってしまった。千手観音ならず4手観音だ。
2025.10.24 世田谷美術館の塚田さん来訪。11月28日オープンのベルリンの個展に誰かレクチャーをと依頼されているので彼女を推薦するが、当日は大学の授業があるという。たった一日の授業より、ベルリン行きは生涯の思い出になるよと説得するが、果たして?
明日オープンの新カルティエ美術館のオープニング展のカタログ送ってくる。美術館のコレクションの内から100人の作家を選出した展覧会だが、他の展覧会とかなり異なる作品展の様相を呈している。日本の現代美術が向いている方向と完全に違う。ぼくの他に森山大道も選出されている。来年8月末まで大量の観客動員を想定した超長期展。ジャン・ヌーヴェルの前評判の高い古典建築のリニューアル版。
2025.10.25 ベルリンとパリで開催される展覧会には大量に出品しているが、20数年間、海外旅行には出かけていない。出不精な損な性格としかいいようがないが、どこに行っても覚めていて、感動も興奮もしないからかな? 自分が行かなくても作品が行けばいいと思っているからかな? あるいは死んだら好きなところどこへでも行けると思っているからかな?とは関係なく深夜の海外紹介番組はほぼ欠かさず見ている。
2025.10.26 〈大阪から郷里の実家に帰るとタマとおでんが血だらけ。妻がいうには野良に襲われた〉という夢を見る。 ここしばらく新聞の死亡記事から著名人の名が消えているのは思い浮かぶ大半がすでに亡くなっているからで、残る友人、知人の著名人はほとんどが年少者ばかりになってしまっているからだ。
終日、滝沢さんの肖像画と遊んでいる。(よこお・ただのり=美術家)
