2026/05/22号 6面

日本経済 成長の道筋が見えた

日本経済 成長の道筋が見えた 会田 卓司著 柿埜 真吾  高市政権に国民が最も期待しているのは経済再生だろう。先の衆議院選挙でも、積極財政を中心とする高市政権の経済政策、サナエノミクスの是非は大きな争点になった。  だが、関心が高いわりに、メディア報道でも高市政権の経済政策の全体像は必ずしも理解されていない。本書は、責任ある積極財政とは何か、サナエノミクスとアベノミクスの違いは何かといったサナエノミクスをめぐる様々な疑問に答えてくれる本だ。本書の著者は日本成長戦略会議のメンバーとして活躍するエコノミストで、高市政権の経済政策を誰よりもよく知る人物の一人である。  著者によると、サナエノミクスの本質は投資拡大である。これまでの日本経済は長期停滞が続く中で将来の成長のために必要な投資が不足する状態が続いてきた。著者によれば、投資不足の主因は、財政政策を中心とした間違った経済政策にあるという。日本の財政には、諸外国にはない国債の60年償還ルール、減税するには必ず年度内に同額の増税をする単年度の税収中立の原則など硬直的な財政運営のルールがある。財政当局は過度に悲観的に財政状況を考え、増税を繰り返すなど緊縮財政を続けてきたという。  サナエノミクスは従来の不合理な財政のルールを改め、必要な分野に政府が積極的に投資して日本経済の再生を目指す政策だ。サナエノミクスはアベノミクスの再来と誤解されがちだが、両者は全く違う。安倍政権が需要拡大、家計支援中心の財政政策を考えていたのに対し、高市政権の財政政策は需要拡大だけでなく将来の供給能力を増やすことに主眼を置く。アベノミクスが規制改革と民間主導の投資を重視したのに対し、高市政権の成長戦略は新自由主義からの転換を目指し、官民連携の成長投資を重視する。成長戦略ではアベノミクスとサナエノミクスはむしろ対極に近い考え方に立っているという。  本書には豊富なデータが使われているが、分析手法や解釈に疑問を感じる箇所も少なくない。著者は産業政策の必要性を説くが、市場の失敗を強調するあまり政府の失敗を軽視するきらいがある。例えば、コンテンツ産業支援は諸外国もしているから日本も増額すべきというが、クールジャパン機構は300億円以上の損失を出している。官民連携の成長投資への過度な期待は禁物だ。ドローン規制等が典型だが、成長投資を妨げているのはしばしば政府の過度な規制であることも忘れるべきではないだろう。多くの国民は官製投資より減税を望んでいるのではないか。  著者は政府の財政収支と企業貯蓄率を合わせたものを「ネットの国内資金需要」という独自の用語で呼び、この数値がGDP比5%なら経済が安定すると主張する。だが、これは限られたデータから導かれた経験則で理論的なものでない点には注意が必要だ。企業貯蓄率とインフレ率の関係は、著者の言う通り、日本では密接に見えるが、諸外国でもそうだとは言えないのではないか。政府の負債は民間の資産だから国債は償還しないのが基本とあるが、それは恒等式で、政府債務自体が富を生み出すことを意味しないはずである。  著者は年金財政には楽観的で、日本の年金は積立方式でなく賦課方式なので過剰な積立金は不要だという。だが、退職世代への支払いを既に約束している年金債務の大きさは年金制度をどの方式にしようと変わらない。積立金を取り崩せば、その分を保険料か税の引き上げで支払うことになるだけである。これに関しては慎重な見方が必要だろう。  とはいえ、日本の財政はこのところ急速に改善している。著者は政府の歳出と税収の差がワニの口のように拡大しているという言説が事実ではないことを示し、コロナ禍以降、政府債務残高の対GDP比が順調に低下してきたことを指摘する。当面は日本の財政にはある程度余裕があり、財政出動や減税が可能という主張は説得的である。サナエノミクスの成否はこのチャンスを生かし、実際に成長に結びつく投資を実現できるかどうかにかかっているだろう。(かきの・しんご=高崎経済大学専任講師・経済学説史・計量経済史)  ★あいだ・たくじ=クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト。日本成長戦略会議有識者構成員。著書に『日本経済の勝算』など。

書籍

書籍名 日本経済 成長の道筋が見えた
ISBN13 9784828428185
ISBN10 4828428186