2026/06/19号 6面

「読書人を全部読む!」34(山本貴光)

読書人を全部読む! 第34回 潮流の論じ方  目下は1959年の号を読んでいる。何度か触れているように、この頃の「読書人」の紙面は、書評とは別に政治その他の時事に関する論評も大きく載せており、当時の政治や社会の動きや、当時の人びとの反応を垣間見ることができる。  例えば、この年の前半には、米軍基地拡張への反対闘争を巡る砂川事件関連の判決や、皇太子明仁と正田美智子の結婚と皇太子ブームに触れての天皇制論が、あるいは年の半ばを過ぎたあたりから日米安保条約についての論評も増えてゆく。  1959年の2月から始まった「論壇各月の潮流」というコーナーも紙面に社会の動きを映す鏡の一つだ。掲載ペースは毎月末に1回。「流動している知的な気候を新聞、週刊誌、総合・専門紙に探り、その底流をつかみだそうとする」というコンセプトで、編集部が識者に話を聞くというスタイルである。初回となる第263号(2月23日)2面では、篠原一(1925―2015/33/東京大学助教授・ドイツ政治史専攻)が編集部の問いかけに答えている。  その際、篠原は、コーナーの趣旨に則ってだと思われるが、大衆運動とその組織論、警職法、中国の人民公社といったトピックについて、「中央公論」「世界」「思想」「朝日新聞」「思想の科学」「世界週報」「前衛」といった各種論壇誌に掲載された論文を参照しながら解説している。現実の社会状況と、それらを各論者がどのように認識・評価したかという論文を重ね合わせての論評は、それらの材料を寄せ集めただけでは見えてこない大きな構図を浮かび上がらせてくれる点でありがたいものだなと感じる。  また、この2面には「総合雑誌論文・読みどころ」という記事が並置されている。「日刊・書評各紙上の総合雑誌評、論壇時評で注目され、賛否こもごもの評価をうけた各論文」とその評価をダイジェストで伝えるという趣向だ。例えば『中央公論』掲載の桑原武夫「日本の教育者」という論文について、朝日、毎日、読売、東京、図書の各紙に載った評価を要約で紹介するという具合である。これを見ていると、そこで言及されている論文をすぐにでも読みたくなるものの、デジタルアーカイヴでぱっと読める、という状況になっていないのがもどかしい。所蔵している図書館に行って読めばよいというのはその通り。  さて、こうした当時の社会情勢やそれについての論評は、同時代の人なら直に語られていない点を「あれのことだな」と補いながら読めるところ、後世の読者には読み取りづらくなることも少なくない。実際、本紙のバックナンバーの記事を読みながら、そのように感じることもある。といっても、だから駄目という話ではない。同時代を生きる人に向けた論評としてはそれで十分役割を果たしているのであって、後の立場から文句を言う筋合いではない。  他方で今回、篠原の解説を読んでみて、それとはまた別の印象を持った。言及されている事柄を彼らほど耳目にしていない立場でも理解できるように語られていると感じた。喩えるなら、自分が見なかったサッカーの試合の見所を的確に解説してもらっているような気分である。評者の一歩退いた視点がなせる業であろうか。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)