書評キャンパス
ショーペンハウアー『知性について』
髙橋 智矩
哲学及び之を業としている哲人らに就いて、衆人は先入観やバイアスやに因って、自己と其の生活に一毫も関わりの無い空談の若きに思い込んでいる。然るに、殊に年少の衆人らに於いて楽しまれているところのアヴァンチュール等を描いた小説の方が、吾人らの生活に何らの聯関するところも無いことが解り、逆説的に哲学なるものの「生」との関係の程度を闡明し得るであろう。なれども、吾人の前述せるが若き思い込みに長いこと侵されて来た人々に対しては、首先、哲学と人間の生活との聯関の問題以前に、哲学への由無き抵抗の心を除去しなくてはなるまい。其の点から考うるに、本書ショウペンハウアー(ショウペンハウエル)の『知性について』は最適したる書であろうと考え、之を広く薦め、閲読せられんことを願うものである。して、本書の内容に就いて少しく解説を加え、以て読者の一助とならんことを願う。
本書は、題に冠されてる「知性について」の他、「哲学とその方法について」「論理学と弁証法の余論」「物自体と現象との対立についての二三の考察」「汎神論について」の計五篇が纂輯されてる。なお断っておくが、めいめいの篇に就いて詳解することは紙面が許さぬから、あくまで読者の案内に与する形にて概観するに留める。
これら五篇は悉皆ショウペンハウアーの主著たる『意志と表象としての世界』の付録、補遺に属するものであって、各篇に連続性は無く、独立している。従っていずれの篇から読み始めるかは読者の任意である。各篇の内容の分量はまちまちであるが、一週間に一篇などといった形で読み進めるのが良いだろう。
しかし「汎神論について」のみ、扱っている内容上、初めて哲学書に親しまれる方は最後に読まれるのが良いと思われる。「哲学とその方法について」や「知性について」を先に読まれたい。これらの篇は、意図を以て哲学の入門として執筆されたものではないが、哲学とは何ぞやといった根本的な問題や、吾人ら人間一般の認識についてなど、これから哲学の畑に分け入ろうとする者に適したる内容であろうと思われる。
現代は文明の発展に伴って日々漸次に複雑化し、収集し得ない混沌を呈している。情報の氾濫や、無根の思潮に踊らされることのない透徹したる目を養うに、本書は大いに貢献するであろう。また自身の生き方といったものを模索してる人々にとっても、本書は益するところ多かろう。(藤野寛訳)
書籍
| 書籍名 | 知性について |
| ISBN13 | 9784003363232 |
| ISBN10 | 400336323X |
