2026/03/13号 5面

日常の向こう側 ぼくの内側 729(横尾忠則)

日常の向こう側 ぼくの内側 729 横尾忠則 2026.3.2 〈電車内で田村正和さんと同じく亡くなったお兄さんの田村高廣さんと一緒になるが、正和さんとは応接間のある別車両に移って話す〉夢を見る。  永井一正さん死去に「しまった」と思ったのはベルリンのポスター展にコメントを寄せてもらっていたことにお礼をしていなかったことにだった。96歳の長命はデザイナーでは最年長だった。ご冥福を祈るばかりだ。  心配していたおでんが丸顔に太って退院してきた。病院では吐かないが、どうして家では吐くのだろう? わが家の食事の作法に間違いがあるのかな?  北沢さんがメールでベルリンのポスター展に来客が絶えず、一ヶ月の延長が決定したと。 2026.3.3 〈東野芳明さんが車道を横断中、事故に遭って、そのあとセーヌ河に落ちて救急車で搬送されたと新聞のコラムに出てた〉という夢を見る。東野さんは水が大好きだった。  久し振りの雨は悪くないが、躰には悪い。  「芸術新潮」でレコードジャケットの取材に大久保さんと吉村さん来訪。一堂に集めてわれながら、こんなに多かった?  横浜から南雄介さん来訪、財団法人の話を聞くが、難しかった。  夜になっておでんが大量の嘔吐。食道に食べ物がたまって胃に流れないらしい。おでんも頭が痛いだろうが、わが夫婦も頭が痛い。 2026.3.4 東京国立博物館の松嶋さん来訪。世田谷美術館の「連画の河」展が神戸のぼくの美術館で展示、その後東博に全作所蔵される、そんな打合せを。 2026.3.5 イギリスのテームズ&ハドソン発行の「JAPAN ART REVOLUTION」に20数頁作品が紹介されているが、グッゲンハイム美術館のアレクサンドラ・モンローさんの監修、アメリィ・ラバレクさんの編集で刊行されたらしいが、ぼくの60年代のポスターはサイケデリックの影響と書かれているが、アメリカのサイケデリック以前の作品である。アメリカが日本を模倣しているのにケシカラン。 2026.3.6 アトリエの改修工事を元磯崎事務所の吉野さんと渡辺工務店との打合せ。ついでに自宅のアプローチも補修してもらう。  神戸の横尾現代美術館の山本さん、鈴木さんが次回展の「寒山百得」展の会場構成のプランを持参。世田谷展と違って会場を二層に分ける構想だが、意外と見易いかも知れない。期間中、世田谷芸術館の塚田さんのレクチャーが予定されている。  おでんが再び入院。食道のダメージは完治しないそうだ。このことが彼女の命取りになるかもしれない。さらにガンも患っている。おでんの容態は医師でないとわからないが、寿命の時間があまりなさそうだ。そういう意味ではわが夫婦も似たようなものだ。  夕方から夜にかけて便秘に苦しむが、夜半近くやっと解消。  WBC全日本vs台湾戦は一般のテレビでは観れない。大谷の満塁弾で勝負がついたようなものだ。13対0で圧勝。 2026.3.7 晴れだが雲が流れている。寒くはないが風強し。コンビニでおにぎりと豚まんと焼鳥を買う。昼食はいつも千円を越えたことがない。  この日記はアトリエのベランダで書いていたが、ここまで書いたところで一枚目が風で飛ばされ、あわや見失うところだった。  土日は退屈でほとんど無為の時間をなるべく考えないことに徹しているが、皆んなは何をしているのかな。  侍ジャパン、韓国に振り廻されながらメジャー組のホームラン攻勢で勝つ。 2026.3.8 舞踏集団白虎社の大須賀勇さん(80)死去。彼と一時ポスターを描いたことから交流があって時々消息を気にしていた。またひとりいなくなって世界が狭くなっていく。元気でもない自分がどうしてまだ生きているのかな。妻と共にここにいることを感謝するしかない。  安青錦が勝って、オーストラリア戦に侍ジャパンが危うく勝って今日は終った。(よこお・ただのり=美術家)