書評キャンパス
かみゆ歴史編集部編著『対立の世界史図鑑』
倉井 涼
世界史好きな自分が題名でふと手に取ってみようと思ったのがこの本だった。人類が辿ってきた、対立の世界史、動乱の歴史とは一体どんなものか改めて知りたくなったからだ。本書では、世界史で度々発生する動乱にのみ焦点を当てている。逆に言えば、世界史的に重要な出来事でも、動乱以外には言及されていない。だからこそ、人類の教訓としての歴史の側面を強く実感できるのではなかろうか。この本を一見するだけで、人類が古代から現代まで、いかに多くの戦乱に及び、そして疲弊してきたかがわかる。各動乱や戦争は見開き1頁ないし2頁でコンパクトに記されている。世界史には詳しいつもりだったが、改めて多くの学びを得られた。中でも、特に印象的だった戦争は2つある。
一つ目は、アヘン戦争だ。1840年、英国と対立した清王朝は戦争に及ぶも、2年後敗戦に追い込まれる。戦争の原因は英国が従来の貿易方式を変更し、アヘンを中国への主たる輸出品としたことで、清の銀が国外に流出したこと、そして清国民のアヘン依存が拡大したことだった。清は財政の悪化に脅威を覚え、貿易が唯一認められていた広州で、英商人の保管するアヘンを没収し廃棄するという強硬策に出た。結果として、英国は軍隊を派遣し清への攻撃に及んだ。この戦争から得られる教訓は、貿易戦争が実際の戦争に発展する危険性だろう。英清双方の対応は、相手を刺激する対応の連続だった。結果、外交交渉の道が絶たれ、戦争による悲惨な被害が出ることになってしまった。現代社会にも通じる示唆だろう。加えて、アヘン戦争の結果、清は香港島を英国に割譲することとなり、列強がアジアを植民地化する転換点になった。香港は1997年に中国に返還されたが、以降も様々な政治問題を有し、現代にも爪痕を残す戦争だと言える。
二つ目は、ナポレオン戦争だ。これはフランス革命戦争を引き継いで、ナポレオンが主導する形で1796年に開始された。フランス革命の影響で自国でも同様の革命が生じることを警戒した欧州諸国が対仏大同盟を結成し、フランスと戦争に及ぶこととなった。ナポレオンは戦争中ロシアと英国を除く欧州のほぼ全域を支配するに至ったが、最終的には同盟諸国の激しい反攻に遭い、フランスから追放され戦争は終結した。結果として、フランス革命以前の体制を維持するウィーン体制が成立することとなった。ウィーン体制では、自由主義の退潮と保守主義の復興という戦前の体制に戻ったがゆえに、後々欧州では独立運動や民衆の革命の波が広がり、自由主義的精神が復活することとなった。この戦争で、欧州は荒廃し多くの人が亡くなる悲惨な結果を招いたが、同時にナポレオンがもたらした自由主義は、その後の欧州政治を規定するようになっていく。その後の欧州政治、ひいては彼らが関わる国際政治の基本路線が生み出されたという意味で極めて重要な戦争だろう。
そのほかにも、この本では多くの戦争が解説されている。そういった戦争の多くに共通するのは、その結果が後代まで強い影響を及ぼしていることだ。我々はそういった事実を忘れないようにするためにも、戦争の歴史を学ぶ必要があると思う。本書には近年のウクライナ侵攻やイスラエル・ガザ戦争までが解説されている。今なお続く世界の戦争を考える上でも歴史的知識は重要だ。
書籍
| 書籍名 | 対立の世界史図鑑 |
| ISBN13 | 9784791633029 |
| ISBN10 | 4791633024 |
