2026/06/05号 7面

American Picture Book Review 109(堂本かおる)

American picture book review 109 堂本かおる 『パパ』  父の日を前に、父親のあり方を観察し、それを最もシンプルなイラストと文で描写した味わい深い絵本が出版された。動物の父親の生態をもとに、父親にもあらゆるタイプがあり、父親もまた一人の人間なのだと見せるもの。  「パパは強い」――最初のページには大きなゴリラの父親が描かれている。鋭い眼光、真一文字の口、太い前脚! そんなパパを、小さな仔ゴリラが自慢げに、同時に甘えるように見上げている。古典的な父親像だ。しかし世の中にはいろんなパパがいる。キツネのパパは疲れているのか、丸くうずくまってうたた寝している。仔ギツネたちはパパのフサフサのシッポに心地よく包まれ、やはりウトウトしている。フクロウのパパは食べ物を狩るために子どもたちを巣に残して飛び立っていく。テナガザルのパパはママよりも育児にハッスルする。カエルのパパはオタマジャクシを背中に乗せている。子どもたちがカエルになるまで守るのだ。その後は成長した子どもたちを信頼し、パパはどこかに行ってしまう。ゾウのパパは仔ゾウの話を聞いてくれる。オオカミのパパは仔オオカミに遠吠えを教えることによって一族の物語を伝承する。そうかと思えば、大きくて場所を取るだけで育児をしないパパも登場する。サメのパパだ。こんなパパたちも時には失敗する。ハリネズミのパパは何をしでかしたのか、仔ハリネズミの前でしょんぼりとうなだれている。  動物の父と子の描写で始まる物語は、いつしか人間の父と子の物語に入れ替わる。パパは泣いている子どもの涙を拭うこともする。そんなパパも時には訳あって涙ぐみ、子どもに見られないようにそっと瞼をこする。子どもたちは、たとえパパがそばにいない時でさえ、そんなパパの存在を肌に感じている。  パパが見る夢は、自分の子がスクスクと元気に大きく育っていくこと。パパは知っている、子どもがやがてパパの手を離れて独り立ちすることを。さみしくもあるけれど、自分の脚で立つ子を誇りに思い、子を育て上げた自分をも誇らしく思うのだろう。この絵本を子どもに読み聞かせる父親は、自分の父親としての、これまでと、これから先のありようをしみじみと考えるのではないだろうか。  イラストと文の両方を手掛けているのは人気の絵本作家、クリスチャン・ロビンソン。科学や自然に強い関心を持つロビンソンは、本作の動物の父親の子育てを実際の生態に基づいて描いており、巻末に解説があるのも楽しい。ロビンソンの作品は、スープキッチンの物語『おばあちゃんと バスにのって』、刑務所にいるお母さんに面会に行く『マイロのスケッチブック』、生徒や先生よりも緊張している“学校”のお話『がっこうだって どきどきしてる』など翻訳版が多数出版されている。(どうもと・かおる=NY在住ライター)