2026/01/09号 6面

「読書人を全部読む!」18(山本貴光)

読書人を全部読む!  山本貴光 第18回 あなたのリアリティ はどこから?  第258号の2面に「科学とマスコミ」という大きな見出しがあり、イラストが添えてある。キャプションによると「月に着陸した宇宙船―「画報・科学時代(宇宙の驚異)」(国際文化情報社)より」とのこと。といっても、ご存じのように人類が初めて月面に降り立つのは、その10年後、1969年のアポロ11号によるのだから想像図である。  さて、そこには2つの記事が載っている。編集部によるリードは「トソ機嫌のわれわれを驚かしたソビエトの宇宙ロケット打上げのニュースは、ジャーナリズムにはね返って、一層の〝科学ブーム〟をひきおこさずにはすまないようだ」と始まる。ソ連の月探査機ルナ1号打ち上げという出来事が、当時の人びとにどれほどの衝撃を与えたかは分からないが、文字通り誰も行ったことのない未知の空間へ向けた探索の始まりに興奮や興味を覚える人がいたとしても不思議はない。  寄稿しているのは「かねて科学に深い関心を寄せている埴谷雄高(作家)、林克也(軍事評論家)」とのことで、科学そのものというよりは、「科学もの」についての意見を聞いている。  埴谷雄高(1909-1997/50/作家)は「科学と空想の矛盾――リアリティをいかにして得るか」というタイトルで、サイエンス・フィクションを論じている。根底に「リアリティのかけら」のない空想は味気ないものだが、ソ連のロケット打ち上げという現実に触れて、「ときに愉快なときに不気味な幻想が起こって尽きるところがなかった」というので、自身の空想が書かれている。  その上で、アルフレッド・ベスター『わが赴くは星の群』(中田耕治訳)、アイザック・アシモフ『裸の太陽』(伊藤照夫訳/都筑道夫の別名義)、ジョン・マントレイ『恐怖の27日間』(亀山竜樹訳)、ベリャーエフ『人工衛星ケーツ』(木村浩訳)の4作に触れて寸評が加えてある。総じて問題点の指摘が多めだが、ベスターの『わが赴くは星の群』(後に『虎よ、虎よ!』と改題)は「ずばぬけている」「単なる思いつき以上の成果をあげていた」と高評価。締めくくりでは、「探偵小説におけるポオのごときひとりの思いがけぬ天才がでてきて私達を驚かしてもいい頃だと思われる」とも。  彼が評価の基準としている「リアリティ」なるものが、どのような内実かにもよるのだが、これは「リアリティを欠く」「荒唐無稽である」といった否定的評価と裏腹なものであるだけに、そこのところをもう少し詳しく知りたいところ。  ついでながら、ここで埴谷が読んだ小説は、いずれも1958年に講談社から刊行された「S・F・シリーズ」に含まれる。私が確認した限りでは、全6冊が刊行されており、他にフレドリック・ブラウン『星に憑かれた男』(田中融二訳)、ハインライン『夏への扉』(加藤喬訳)がある。埴谷に限らず、SFに対する評価の変遷は気になるので別途調べてみようと思う。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)