2026/05/29号 5面

ムーミンパパ海へいく

〈書評キャンパス〉トーベ・ヤンソン『ムーミンパパ海へいく』31(小岩寛奈) 
書評キャンパス トーベ・ヤンソン『ムーミンパパ海へいく』 小岩 寛奈  『ムーミンパパ海へいく』は、「ムーミン」シリーズ全9冊のうち7冊目の作品である。冒険心のあるムーミンパパが、一家を巻き込んで灯台のある島で生活するという内容だ。それはムーミンパパのたっての希望だったが、住み慣れたムーミン谷とは違った世界に家族は疲弊し、パパ自身も疲弊していく。そんな中でもムーミン一家は、楽しさを見つけて島での生活をする。本書では、シリーズのほかの作品とは違う、ムーミン一家の不安や葛藤、挑戦や克服の様子が見られる。  この話の中のムーミンパパは、それまでの作品とは異なり、特に冒頭ではずっと憤慨している。憤慨を態度で示し、言葉にしないため、なかなか怒りが収まらない。自分の理想とする父親像や家族内での役割があり、周囲にそこから外れた態度や行動を取られるとより憤慨する。家族はそんな父を好きなようにさせておきながら、晩御飯をきちんと用意している。ムーミンパパの一家は、憤慨している父を否定することなく受け入れようとしているのだ。  ほかの作品にも共通することではあるが、何か大きな問題が起きた際に、ムーミン一家はまず事柄を受け入れようとする。この視点は、現代社会でも必要とされる考え方である。  そして、ムーミンパパはいつもと変わらない刺激のない日常への怒りを、どうしたら解決できるのか考え、自身の尊厳を確かめるために、灯台の島へ行くことを決意する。ほかの家族は、正直に言えば、特に行きたいとは思っていなかったが、ムーミンパパの行動を受け入れようとしたのだ。  新しい生活が始まればすべてが解決すると思っていたが、環境を変えたことにより新たな問題が出てくる。灯台の島では住居環境が整っていなかったため、自分たちで使いやすいように整えていくことになる。新しく知り合った漁師との近所付き合い、食糧問題などもある。それらの問題に負けず、諦めることなく解決しようと必死になっている姿は、見習わなければならないと思わされた。そして、次第に一家の考え方や行動が変わっていく。  作者は、フィンランド出身のトーベ・マリカ・ヤンソンで、画家、小説家、児童文学作家、ファンタジー作家である。ムーミンの物語には、人間ではないものたちが登場するが、実在しそうなリアリティを感じることができる。それは、モデルとなっているのが作者の周りにいた人たちであるからだ。ムーミンパパは冒険心が旺盛で海を愛するところと、同時に憤慨し続ける気難しいところや、父親の威厳に拘るようなところがあるが、そのモデルは著者の父であるという。父は戦争に出征し、帰還後しばらくは心を病んでいた。「ムーミン」シリーズを読むことで、著者の戦争への考えも読み取ることができる。  現代社会では、何か新しいことをしようとした時に、必ずのように否定する人がいる。また、問題点を挙げただけで、しっかり向き合おうとしない人もいる。否定せず受け入れようとし、そこで出た問題に真摯に向き合って取りくむこと。これこそが、昨今の世の中で必要となる視点ではないだろうか。そのような社会に必要な考え方も学ぶことができる重要な一冊だ。(小野寺百合子訳)  ★こいわ・かんな=神戸海星女子学院大学現代人間学部4年。好きなものは、ムーミンです。小さい時にアニメの再放送を見てからムーミンが大好きになりました。いつかムーミンバレーパークに行ってみたいです。

書籍

書籍名 ムーミンパパ海へいく
ISBN13 9784065401859
ISBN10 4065401852