BUTOH 11人の舞踏家に聞く
小菅 隼人著
宮田 徹也
慶應義塾大学にはアート・センター土方巽アーカイヴがあり、日吉キャンパスで一九九四年から新入生歓迎として春に舞踏公演が行われている。著者の小菅隼人(一九六二~)は慶應義塾大学理工学部教授、日本演劇学会会長。着任後まもなく行われたこのイベントに「のめり込むようになった」(三五七頁)。
イベントの合間を縫って行われたのであろうこのインタビューが纏まることは、舞踏を知る者も知らぬ者にとっても、嬉しいことだ。伝説ではない、舞踏の、今の、生の声が聞けるからだ。
批評家で編集者でもある志賀信夫が『舞踏家は語る』(青弓社、二〇一四年)を出版してから十年以上の歳月が経過した。笠井叡、上杉満代の思考の変化を研究することが出来るし、故人となった大野慶人、和栗由紀夫、石井満隆を思い起こすこともできる。併せて読まれたい。
「私が体験したことが全て舞台で蘇ってきた感覚」(三〇頁)に見舞われた中嶋夏、「踊りっていうか動きっていうのは、基本的にはやっぱり神経ですから。僕はもう神経と生理だと思っていますから」(六二頁)と語るビショップ山田、「幽霊とか非在とかが、子供の頃に自分の家の庭や野山をうろうろしたりして無意識のうちに自分の中に探していたものとぐっとくっついて繫がった」(九一頁)、「土方さんの踊りの一番特徴的なものは何だろうかということを考えていくと、普段使ってない無意識の領域を使うんですよね」(九七頁)と分析する小林嵯峨。
「母は九つの時に急性の骨髄性白血病という病でわずか七日間で亡くなりました。今は白血病については骨髄移植やいろいろなものが発達したんですけれども、私の頃は、モルヒネもない時代だったので、母の断末魔の絶叫、その壮絶な死の床にあってお別れすることもできませんでした」(一一二頁)と振り返る雪雄子、「私のワークショップは非常に厳しく身体訓練をするんです。心なんてあやふやなものよりもその骨格」(一五一頁)、「上杉満代ってのは何もない。全部私の中には他者、他者がいる」(一六四頁)と突き放す上杉満代。
「自分はキリストの復活が何かを知りたいのであって、人間の受難、つまり罪が何かということをあまり知りたいとは思わなかった」(一八四頁)、「日本において正統があるかというとないんです。異端も正統も一つになって天皇がいるだけです」(一九七―一九八頁)と論考する笠井叡、「弾かれたり、押し込められたり、また引っ張られたりしていく傷の増殖と分裂、そうした在り様ですね。でも、そうした傷をどんどんどんどん飲み込んで、それを食いちぎっていかないと舞踏っていうものの現れが出てこないっていうふうにもすごく思っていますし、ただただ問い晒されるだけでは舞踏は成立しないと思っているんです。そこで、私は傷を食いちぎっている。舞踏の力と考えてもいいのですが、命の柔らかなものです」(二一六頁)と、壮絶な覚悟を持つ森繁哉。
「僕の幼い頃、ひいおばあちゃんのそばで寝ていたんです。その時に雷がピカっと鳴って、「怖い!」とひいおばあちゃんの布団に潜り込んでいるんですが、その時が一番怖かったですかね。外の雷がピカっと障子に映ったりするのが。それが僕にとっての最初の「闇」かな、と感じるのはあります」(二四九―二五〇頁)と思い起こす山本萌・白榊ケイ、「目的を持った時にもう終わりに着いている。その失われた時間を取り戻すのが舞踏なんだ」(三〇三頁)と、土方巽との思い出を交えながら吐露する正朔。
「作品を作るっていうことは自分を作ることだって思っていて、自分がどうありたいかとか、どうなりたいかっていうことを一番の拠り所にしてる」(三三〇頁)と思いを嚙み締める今貂子、小菅の暗い「今の世の中(中略)をどんなふうに眺めてらっしゃいますか」という質問に対して「自然現象はしょうがないな。どうしようもない。これは致し方ないんじゃないかなと」(三五五頁)達観する玉野黄市・玉野弘子。
小菅は各人に生まれと育ち、舞踏者として生きるきっかけ、舞踏とは何か、舞踏の身体、舞踏の性差、老いなど、舞踏に明るくない者が知りたい内容を軸に話しを展開するので、とても分かりやすい。小菅の個人の問題である演劇、シェイクスピア、キリスト教を交えているので、親しみを感じる。
「舞踏家と付き合うようになって、舞踏に対する理解が変わったのは、舞踏家は単に公演で作品を披露するだけの存在ではないということであった。むしろ公演は、舞踏家にとって、余技ではないかとさえ思えてきた。これは舞踏家が作品を軽んじているということでは決してなく、むしろ舞踏に対する真剣度が、作品をはみ出しているということである」(三五八頁)。
この一連の研究を通じて「舞踏は「生き方」」(一一頁)と語る小菅が、舞踏者に成ったのではないかと、私は感じている。(みやた・てつや=日本近代美術思想史研究)
★こすげ・はやと=慶應義塾大学理工学部外国語総合教育教室教授・日本演劇学会会長・シェイクスピアおよび現代芸術(舞踏論)。編著に『腐敗と再生』、共著に『演劇と音楽』など。一九六二年生。
書籍
| 書籍名 | BUTOH 11人の舞踏家に聞く |
| ISBN13 | 9784130860703 |
| ISBN10 | 4130860704 |
