- 評者: 野口弥太郎
〇⋯伊勢神宮の初もうで、五十鈴川の清流のほとり、エメラルド色の水面を見ていると、青や赤の魚が流れをさかのぼっているのが見える。水に洗われた紺色にかがやいた敷石と玉砂利のほとりに、いつ現われたのか二重マントをつけた老人とその娘さんらしい和装の女性。
〇⋯流れに手をひたして二人は謙譲な表情で、玉砂利の中をザクザクと上手の森と消えた。女性の赤と白と黄の着物がゆれている。老人の白い絹の頸巻がふくらんでいる。ふと見ると老人のマントの袖の下には清酒のピンがぶらさげられている。
〇⋯日本人の清楚な神への敬虔な気持が何んとスガスガしく感じられたことであろう。人々はこうして日本の神をあがめ、端正な日本精神がこの新年の参拝をくりひろげ、成長していくのである。私はこの自然と風物に日本の真の姿をはっきり感じたのである。(のぐち・やたろう氏=独立美術協会会員)