相撲を楽しむ技術
琴風 浩一・二宮 清純著
西尾 克洋
コロナ以降、大相撲が若貴ブーム以来ともいえる人気を博しています。チケットは発売当日に数分で売り切れ、テレビの視聴率も千秋楽では二〇%を超えることがあります。
これにはさまざまな要因がありますが、相撲の分かりやすさという側面は非常に大きいでしょう。身体の一部が土俵の外に出たら負け、足の裏以外が地面に着いたら負けという、他の競技と比べても勝敗が誰の目にも明らかなシンプルさが、人々の心をつかんでいる部分があると言えるでしょう。
一方で、シンプルに見える相撲は、掘り下げてみると実に奥が深く、知れば知るほど楽しくなってくるものです。出版不況と言われて久しい昨今、相撲の入門書が数多く出版されているのは、それだけ多くの人が相撲をきちんと理解したいと考えていることの表れでしょう。
そして基本を理解すると、次のステップとして、その日の取組や力士の特徴、なぜ勝てるのか、何が課題なのかといった部分が気になってくるものです。
ただ、相撲中継でこうした部分を掘り下げて語る役割を担うのは親方たちです。相撲という競技の性格上、どうしても好調なときは「気迫が勝った」、不調なときは「稽古が足りない」といった具合に精神論で理由を語るケースも多く、一歩先を行く理解がしづらいのも一つの特徴と言えるでしょう。
今回紹介する琴風浩一・二宮清純著『相撲を楽しむ技術』は、そんな需要に大きく応える一冊です
本書でまず印象的だったのは、現在の大相撲の中心を担う横綱・大関四人について、プロの視点から的確に、そして分かりやすい言葉で丁寧に分析しているパートです。
例えば琴風さんはNHKの専属解説者を務めており、横綱・大の里が引きを見せると「毒まんじゅう」と評することがあります。「引き=悪」という単純な理解は浸透していますが、本書では、その構造やなぜ悪いのかという部分まで言及しています。単なる苦言ではなく、これから大の里を見るうえで「なぜ引くのが悪いのか」を構造的に理解できるわけです。これができれば、相撲ファンとして大きな進歩になると思います。
また、本書は二〇二五年四月から複数回のインタビューを経て出版されていますが、興味深いことに、そこで指摘されたそれぞれの力士の課題がその後表面化し、二〇二六年七月現在では、その壁を乗り越えることが彼らのテーマになっています。お二人の対談は近い未来を予見するものでもあり、その慧眼には驚かされました。
さらに、琴風さんが「稽古が足りない」と指摘する力士についても、課題を提示したうえで、時間を割いて取り組むべきだと具体的に語っています。そのため、単なる精神論としてではなく、「必要なこと」として理解することができます。
そのほかにも、知っているようで知らない相撲部屋や一門、伝統的なシステムと、それをどのように改革してきたのか、そしてこれからどう変えていくのかといった部分にも言及しています。
琴風さんが長年、現場で見てきた知見をもとに語っているため、他の本やWEB記事では知ることのできない相撲の一面にも触れられます。行司や呼出の仕事、一門や相撲部屋の統廃合といった内部事情についても興味深い話が掲載されており、読んでいて非常に楽しめました。
個人的には、琴風さんとスポーツライターの二宮清純さんという組み合わせも非常に良かったと感じました。互いを尊敬し合っている関係性が伝わり、世代が近いこともあって、琴風さんの現役時代の話や引退後の親方としての仕事を二宮さんがうまく引き出しています。対談が気持ちよくスイングしていく感覚があり、読んでいて心地よく感じました。
相撲をもう一歩深く楽しみたいと感じている方に、ぜひお勧めしたい一冊です。(にしお・かつひろ=スポーツライター・相撲ライター)
★ことかぜ・こういち(本名・中山浩一)=元大関琴風・元尾車親方。七一年初土俵、七七年新入幕、七八年関脇に昇進。八一年九月場所で初優勝し場所後に大関昇進。八五年現役引退。その後、年寄「尾車」を襲名し、尾車部屋を創設。二〇一二年から二四年まで日本相撲協会理事。
★にのみや・せいじゅん=スポーツジャーナリスト。著書に『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『ワールドカップを読む』など。
書籍
| 書籍名 | 相撲を楽しむ技術 |
| ISBN13 | 9784476034455 |
| ISBN10 | 4476034454 |
