2026/07/31号 2面

地雷グリコ

角川文庫
KADOKAWAの文庫 地雷グリコ 青崎 有吾著 藤田 香織  第三十七回山本周五郎賞、第七十七回日本推理作家協会賞(長編および連作短篇集部門)、第二十四回本格ミステリ大賞(小説部門)などを受賞し、「このミステリーがすごい!」や「週刊文春ミステリーベスト10」ほか、多くの年間ベスト本ランキングを制覇した話題作である。  ともすれば安易に使われがちな「話題作」だが、本書が刊行された二〇二三年末は、ミステリー評論家のみならず、あらゆるジャンルの「本読み」から、読んだ? 面白かったよね! まいった! やられた!という声を聞いた、正真正銘、まごうかたなき「話題の作品」だ。  都立頬白高校に通う一年生の射守矢真兎が、学内外でさまざまな勝負に挑む連作で、「地雷グリコ」「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールーム・ポーカー」と題された五つの戦いは、すべて老若男女によく知られたゲームがベースになっている。  じゃんけんをして勝った者が出した手の数だけ先に進めるグリコ。百人一首を使った坊主めくり。グー・チョキ・パーで勝敗が決まるじゃんけん。昭和の定番だっただるまさんがころんだ。そしてカードゲームの王者ポーカー。「遊び」として馴染みがあるからこそ親近感が湧き、そこにプラスされる独自のルールに興味を惹かれる。  こうした〈「多くの人が知っているゲームに少しだけルールを付け加える」という形でオリジナルゲームを考案している〉本書の巧さや心にくさを、文庫版では作家の小川哲が解説しているのだが、ユーモアを交えつつも見事な補助線となっていて、より理解も深まり、物語の楽しみが広がる。解説はかくありたいと唸る、文庫ならではの読み応えだ。  では、なぜ真兎たちは、そうした謎の戦いを続けているのか。帯に記された「最高級の頭脳戦!」は何のために繰り広げられるのか。「理由」はほどよくくだらない。文化祭で一番人気の屋上を使用する権利の奪い合い、かるた部が出入禁止になった〈かるたカフェ〉のマスターの懐柔。真兎を生徒会に引き入れようとする会長からの挑戦や、他校から流失した一枚十万円のチップの争奪。命を懸けるわけではなく、負けたからといって人生が終わるようなこともない。  なのに、にもかかわらず、ひりひりする。  「理由」だけを書き出してみれば、どうでもいいようにさえ見えるのに、読み進めていくうちに胸が熱くなり、真兎にエールを送らずにはいられなくなる。次第に色濃くなっていく青春力に圧倒され、懐かしくて羨ましくてなんだかにやにやしてしまう。飄々としていて真面目そうとは言い難い真兎が、小学生のころから処世術として〈ヘラヘラすること〉を身につけた経緯も、常に側で介添役を果たしてくれる「鉱田ちゃん」との関係性もじわじわと沁みる。ひりじわが過ぎるのだ。  肝である「独自のルール」に驚嘆するだけじゃない。この夏、絶対に負けない戦いを、とくとご堪能あれ。(ふじた・かをり=書評家) 新刊・近刊ピックアップ をんごく 北沢 陶著  大正時代末期、大阪船場。画家の壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れられず、口寄せ巫女のもとを訪れる。しかし降霊は失敗し、巫女は警告した。「奥さんな、去んではらへんかもしれへん――気をつけなはれな」やがて小さな怪異と亡き妻の気配が家中に漂い始めた頃、異形と化した倭子の霊が現れた。彼女の霊について探る中、壮一郎は、霊を喰らって生きるという、顔のない存在「エリマキ」と出会い……。  第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞史上初の三冠を受賞、選考委員から満場一致の高評価を受けた規格外のデビュー作が『をんごく』だ。本作の魅力は、著者・北沢陶が磨き続けた美しく端正な文章にある。ホラー小説として怖さが艶めかしく浮かび上がってくるのはもちろんのこと、愛する人を失って悲しむ、という普遍的な感情が繊細かつバリエーション豊かに描かれており、私たち読み手の心を大きく揺さぶってくる。ラストの余韻まで酔いしれてほしい。(既刊・968円・KADOKAWA)

書籍

書籍名 地雷グリコ
ISBN13 9784041166628
ISBN10 4041166624