新しい図書館でイベントを企画する
田村 俊作監修/宮原 佑介・空 良寛・長谷部 涼子著
奇跡のプロジェクト 図書館が街を変えた!
高井 昌史著
柴野 京子
数年前の秋、デジタルアーカイブ関連の学会で金沢の石川県立図書館を訪れた。石川県立といえば、コロシアムのような円形の吹き抜けにぐるりと並ぶ書架が有名で、本書の監修者でもある元慶應義塾大学教授の田村俊作氏が館長に就任したことでも話題になった。公共図書館で学会が開かれること自体きわめて珍しいが、初日の分科会は閲覧室の手前に広がる「だんだん広場」や、キッチンつきの食文化体験スペース、グループ会議室などをフル活用し、いつもとは違う高揚感の中で行われた。
合間には、図書館や向かいに建つ金沢美術工芸大学のギャラリーを見学したり、併設されているカフェやインターネットの使えるスペースで過ごしたりもできる。だが何より画期的だったのは、オープンスペースで行われている議論を、通りがかりの図書館利用者が目にとめ、時には立ち止まって聞き入っていたことである。デジタルアーカイブの中心課題は、公文書からエンタメコンテンツまで、私たち共有の財産をどのように保存・利活用していくかにあるのだが、一般にはなじみにくい。けれどもこちらから場を開いていけば、このような形で多くの人と願いを共有しうる可能性を、図書館のコンセプトから教えられた。
『新しい図書館でイベントを企画する』は、その石川県立図書館のスタッフによる、新図書館立ち上げから運営までの経緯や考え方、実務を記した本である。あえて「イベント」をフォーカスしているのは、「本を読む習慣のない人にも図書館に来てもらう」きっかけを重視しているためだが、前半の設置経緯も読みごたえがある。
執筆者のひとりである宮原佑介氏のまとめによれば、新図書館設置にあたって策定された基本構想のポイントは、①知的な活気と賑わいに溢れる図書館、②文化交流機能と公文書館機能を一体的に備える、③石川ならではの文化を収集活用、である。この図書館では会話や飲食、撮影などを可能な限り自由にしていて、そのサインは入口付近のサイネージで大きく掲示している。棚はテーマ別のオリジナル配架とNDC分類に分かれているが、利用の状況によって今後も変わりうる。
アーカイブの視点からは、公文書館と図書館の一体化にも注目したいところだが、②の文化交流機能が「本を読んで活動する」「経験を深めるために本を読む」ものとして、本と結び付けられているのは、ここがあくまで図書館だからではあるのだろう。生涯教育や市民活動との関連から、複合施設として図書館を配置する事例は増えているが、中のコラムにあるとおり、石川県立はそうではない。ただし「図書館」をどうとらえるかという意味では、その拡張性を機動的に発揮していることに変わりはない。
違いがあるとすれば、本書の中でも繰り返し書かれているとおり、組織がシンプルで意思決定がしやすい点だろう。図書館設置にあたっては条例・規則を改正し、図書館を管轄する県の部局を教育委員会から知事部局に移管して「石川県立図書館条例」を新たに設けてもいる。そうした検討経過や、日常の統計管理方法までが(失敗や本音も含めて)よく整理されているのは、透明性が高く、細部にまで丁寧に合意形成プロセスを踏んでいるからなのだと思う。
後半部で紹介されているイベントは、「司書雀士が教える麻雀の遊び方」「人狼ゲーム」「図書館で恋カツ」「ご当地料理づくり」などどれも楽しく、図書館の屋外で星を見る、鉄道の中で絵本の読み聞かせをするなど、館の外での展開や、大学・企業等とのコラボレーションも積極的に行っている。こうしたつながりは、図書館が地域のハブとなっていく上でも欠かせない。
いっぽう『奇跡のプロジェクト 図書館が街を変えた!』は、決して大きくない地方都市で、複数の事業者とのタイアップによる新図書館を設置した事例である。熊本県荒尾市は三池炭鉱の企業城下町で、炭鉱労働者の住宅跡地に第三セクター方式で建設されたショッピングモールがあり、その再活性化と市立図書館のリプレイスが合致して、モール内の図書館が実現した。このスキームには紀伊國屋書店が関与しており、図書館のある一階フロアには紀伊國屋の店舗がおかれている。
図書館と書店が隣接する例は、丸善雄松堂、蔦屋書店などいくつかある。競合への懸念も示されてきたが、著者である紀伊國屋書店会長の高井昌史氏は、むしろ図書館の業務を請け負うことで書店の出店・維持が可能になると述べている。荒尾市立図書館の場合はデジタルライブラリーを充実させており、小規模館ゆえの蔵書の限界をカバーしつつ、スマート・シティという市の方向性とも一致する。大学を中心に図書館の総合サービス事業を手掛けてきた同社の面目躍如といえるだろう。出版元が東洋経済新報社ということもあって、高井氏の経歴や紀伊國屋書店の事業についての記述も多く、比較的ビジネス書のカラーが強いが、図書館づくりの一つのモデルとして参照できる要素は少なくない。(しばの・きょうこ=上智大学教授・メディア論)
★たむら・しゅんさく=石川県立図書館長・慶應義塾大学名誉教授・図書館情報学。共編著に『公共図書館の冒険』『公共図書館の論点整理』など。
★みやはら・ゆうすけ=石川県総務部秘書課管理専門員。
★そら・よしひろ=石川県立図書館利用推進課長。
★はせべ・りょうこ=石川県立図書館閲覧サービス課司書主任。
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★たかい・まさし=株式会社紀伊國屋書店代表取締役会長。公益財団法人図書館振興財団理事、一般財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)理事などを務める。
書籍
| 書籍名 | 奇跡のプロジェクト 図書館が街を変えた! |
| ISBN13 | 9784492503614 |
| ISBN10 | 4492503617 |
