日常の向こう側 ぼくの内側 715
横尾忠則
2025.11.3 〈磯崎新さんの建てた病院の見学に。院内の家具や調度品はスタッフの作品だが、まるで既製品と変らず。場所変って次に移動したのは高校だが、中庭で女生徒達が歌舞伎を演じているが、時々女性の肉体部分が露出するのを見て、やっぱり歌舞伎の発祥は元女歌舞伎だったんだと妙に納得する〉夢を見る。
ロンドンのThames&
Hudsonの作品集の装幀デザインが気に入らないので抗議したところ、訂正するというメールが入り、OKする。
滝沢直己さんが完成した肖像画を見にくる。原画を見てシルクで刷れないかと希望する。版画作品として販売を希望。お礼といって彼の新作のロングコートをプレゼントしてくれる。滝沢さんは上皇、天皇と秋篠宮殿下と悠仁殿下の洋服の専属デザイナーでもある。
2025.11.4 ニューヨークに行っている塚田さんからフィリップ・グラスより、ぼくにプレゼントとメッセージを受け取っているので、帰国時に届けるといってくる。
2025.11.5 ニューヨーク在住の平野啓一郎くんからMoMAの公式サイトにぼくの作品が105点所蔵されているよという報告と、毎日美術館巡りをしながら絵画の主題よりマチエールに興味があると。本格的な批評の眼を持ち始めたのかな。
眼科に行くが、超満員なのであきらめて帰ってくると不思議に治った。
2025.11.6 〈ルーブル美術館が新装されたらしく、妻と館内を散策しているが、天井が高く、室内は灰褐色一色で、作品は一点も展示されていない空っぽの館内を何の不思議もなく見渡している〉という夢。
ロンドンからキュレイターのハンス・ウルリッヒさんとパンクのアーティストが来訪。どこかで見た人だなと思ったら、カルティエに関連した美術界の中の一人で、すでに彼の肖像を描いていた。インタビューを受けるが、すでに彼の知っていることの確認が中心で特に三島さんと黒澤さんとの交流について「2人からの影響は?」という質問に対して、「いい絵を描くためにはステーキを沢山食べることかな」と答えると大受けした。向こうのインテリはこんなことで大喜びする。
2人が帰ったあと、台湾と上海の美術関係者が10数人来訪。美術に関する質問をされるのかと思ったら、年齢には見えないとか、髪の毛は染めているのか、と外面に関する質問ばかりだった。
2025.11.7 おでんの体調悪く、家中でゲロンパする。彼女にしては不可抗力だけどわれわれにとってはストレスになる。
翻訳者の金子靖さん来訪。海外での作品集は沢山出ているけれど、作家紹介の活字本はないので、英文で伝記的な本を出しましょうと来訪。
2025.11.8 〈原宿の例のおばちゃんの店の近くの戦後のバラック造りの商店街を抜けた所で、大勢の人に囲まれた香取慎吾くんがやってきたので声を掛けたが、「誰?」という顔をされたので自分の顔が変ったのかなと思った。さて帰ろうと思ったが、どこにいるのかわからず、困り果てた〉ところで目が覚めた。
〈ホテルのエレベーターから降りて広いロビーに出た時、郷里から新聞が届いていますとホテルの女性が届けてくれる。見るとぼくの小さい野球観戦記の記事が出ていた。そこに埼玉県知事だか市長がやってきたので、急に遠くに行きたくなったので、埼玉へ連れていってもらえないかと頼む〉夢を見る。
日常は何の変化もないので、夢を日常と思った方が豊かな気分になる。
今朝の朝日新聞にインド映画についての本の書評が出ていたが、仕事だから月一冊読むが、読書に食われる時間は勿体ないので、終日無為な何も考えない禅的な時間こそ神の贈物だと思う。
2025.11.9 〈審判の判定ミスでブルージェイズがワールドシリーズに優勝した!〉夢を見る。夢は事実を転倒させるエネルギーがある。以前、佐々木小次郎が宮本武蔵に勝って歴史を変えた夢を見たことがあったが、江戸川乱歩が「夜の夢こそまこと」と言ったのは間違いではなかった。ドジャースが勝って山本がMVPを貰ったのは皆んな夢であることに気づかなければならない。
〈ホテルをチェックアウトして東京でウォーホルと会う約束だが、難聴のため一人旅はできないので、誰かエスコートしてくれる人がいないかなと探す〉夢を見る。
一日かけて400頁の書評用の本を読む。お仕事だから何も身につかない。月一回の修行だ。(よこお・ただのり=美術家)
