2026/04/24号 5面

コズミック・ガール

コズミック・ガール 伊与原 新著 九螺 ささら  この物語の起点は、主人公の飯星佐那が小学五年生のとき。佐那は、東新宿高校定時制の科学部の、重力可変装置によるクレーター作成実演を見て、全身が粟立つほど感動し、部員たちと写真を撮ってもらった。佐那はそのとき、高校生になったら科学部に入りますと言ったのだが、佐那が中受して入った学校の医学部進学コースは中高一貫で、上がった高校は日本屈指の進学校で、科学部がなく、入学後すぐに大学受験のためのレールが敷かれ、部活動や青春をしている暇はなかった。  そんな中、同じく中受をして同じ高校に上がった親友の果凛が、進学実績を上げたい学校の圧力によって文系転向させられ、その後不登校になると、二学期の始業式の前日に校舎から飛び降り自殺してしまう。果凛は、生徒の家族が集まって行なったバーベキューが、唯一の楽しい思い出だったらしい。悩んだ佐那は高校を退学し、自分の原点となった実演を行なった科学部のある東新宿高校定時制に転入し、自分と果凛に欠けていたものを取り戻そうとする。  しかし転入してみると、伝説の科学部は消滅していた。佐那は、科学部を発足すべく、一人で部員集めの活動を始める。部発足に必要な生徒数は三人。佐那は、勧誘に唯一反応してくれた尾上翔太を誘うのだが、翔太は自分はバカだからという理由で及び腰だった。しかし、彼の工作の才能が露呈すると、それを生かせると説得され、彼は入部する。佐那たちは、水ロケットを作り、その後ハイブリッドロケットを作って、伝説の科学部と同じコンテストに出場しようとするが、伝説の部長柳田から、誰も見たことがないものを作らないと勝てないと言われ、テーマを「廃棄食材を燃料にしたペットボトル・ハイブリッドロケットの開発」として出場を目指す。  中国人の楊宇辰は、親に言われて仕方なく定時制に通っていて、ゲームで金を稼ぎ、ゲーム仲間から日本人を相手にした詐欺に誘われているときに、科学部のロケットに興味を持ち、彼らとの交流から、自分や妹をイジメてきた日本人への憎しみが消え、詐欺をせず、ゲーム仲間のJAXAの元技術者から、部に役立つ情報を得て貢献することになる。片倉理は、リンパ腫で入院していたため同学年の佐那より年上なのだが、佐那と翔太と理で部員が三人となり、科学部は発足。  全日制に移動したい国語科の教師里仲遥香は、元物理の教師で自分も科学部を作ろうとしたことのある副校長の百瀬から、科学部の顧問になったら早く全日制に移動できるよう調整をしてやると言われ、嫌々顧問になるが、後に「科学は人を選ぶ。とくに自分のような文系人間には、近づけないものだ。ずっとそう思っていたけれど、それは間違いだったのかもしれない。科学はもしかしたら、何より平等で公平なものなのではないか。/たとえ一番ではなくても、算数さえ怪しい翔太にだって科学は発見できる。国語教師の自分にも、科学を通じてなら同じことが想像できるのだ」と科学の魅力に開眼、定時制で働き続けることになる。  実は、伝説の科学部が、国内のコンテストで入賞したのに、その先のアメリカのコンテストには部員が年齢制限に引っかかったために行けなかったのだと知ると、もうすぐ二十歳になる理は退部し、代わりの生徒を入部させる。科学部の活動に必要な物を、百瀬は、自身が受け持った定時制の卒業生からの寄付によって調達していた。百瀬は、都の定時制廃止を阻止したく、佐那たちの活躍を定時制の存在価値の宣伝材料として都にその存続を訴えたいのだった。柳田は、顧問の藤竹先生が科学部を捨てたと思い込んで怒っていたが、実は先生は、科学部や定時制への愛ゆえに姿を消したことも分かってくる。  佐那の熱意が、途絶えていた人間関係を接続し、彼らの夢を蘇生した。本書を読み、新聞の学生科学コンテストの記事を想起した。きっと、写真に写っている彼らの後ろにも、それぞれの人間関係とドラマがあるのだろう。(くら・ささら=歌人・絵本文作家)  ★いよはら・しん=作家。東京大学大学院で地球惑星科学を専攻。博士課程修了後、大学勤務を経て『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。著書に『月まで三キロ』(新田次郎文学賞など)『宙わたる教室』『藍を継ぐ海』(直木賞)など。一九七二年生。

書籍

書籍名 コズミック・ガール
ISBN13 9784163920955
ISBN10 4163920951