2025/12/05号 7面

American Picture Book Review 103(堂本かおる)

American Picture Book Review 103 堂本かおる 「人間は社会的動物」とはアリストレスの言葉。人間は個人として存在しながらも社会生活なくしては生きられず、社会生活を営むためには他者と適正な関係性を築き、維持しなければならない。幼い子供たちはいつ、どのように自分自身と自分を取り巻く大勢の他者の存在を認識し、その違いや関係性、距離の保ち方、そして自己のあり方を学ぶのだろうか。 主人公「ボク(Me)」の模索は「ボクはボク(I am Me.)」から始まる。「ボク(Me)」は白い半袖Tシャツに青い半ズボンを履いた茶色いウサギ。次のページには長袖・長ズボンのベージュのウサギが登場する。ちょっと驚いた顔つきになった「ボク(Me)」は、相手をまずは「君は君(You are You.)」と認識する。でも2人はすぐに仲良くなり、すると「ボクたちは、ボクたち(We are Us.)となる。個の「me」と見知らぬ他者の「you」が、ひとつの「us」になったのだ。 そこへ新たに3匹のウサギがやってくる。肌(毛皮)の色はオレンジ、グレー、白。着ている服も青いワンピース、黄色いシャツ、グレーのセーターとさまざま。1匹は車イスに乗っている。けれどすぐに5匹全員で「ボクたち、ワタシたち(Us)」となった。 ページを繰ると、さらにたくさんのウサギがやってきて、5匹は新着者たちを「彼ら(Them)」と呼ぶ。次のページではもっとたくさんのウサギがどんどんやって来て、ページはありとあらゆる「彼ら(Them)」~スケボーしていたり、バレエのチュチュを着ていたり、大柄だったり、小柄だったり、杖をついていたり、ギプスを着けていたり、お行儀が良さそうだったり、ちょっと悪っぽかったり~でいっぱいになり、その数と多様性に「ボク(Me)」は目を見開いてしまう。けれどすぐに自分も含めた全員で「ボクたち、ワタシたち(Us)」なのだと宣言する。そして最後は、最初のページと同様に「ボク(Me)」がひとりで立ち、満足げな表情で確信を込めて言う。「そして、ボクはやっぱりボク(Me)なのだ!」 全員で輪になり「ボクたちは、ボクたち(We are Us.)なのだ!」で終わらせないのは、もしかするとアメリカの精神性なのだろうか。 なお、「bunny」はウサギ(rabbit)を子供向けに可愛らしく言う言葉。「ウサちゃん」のニュアンス。また、タイトル『Me and Other Bunnies』のように「Me」が文頭に来るのはくだけた口語。自分と他者を並べる場合、本来の文法では「Other Rabbits and I」と「I」が後にくるが、これでは子供向けに思えない。 イラストも手掛けている著者は、日本版も出ているベストセラー絵本『ハトにうんてんさせないで。』や『ぞうさん・ぶたさん』シリーズで知られるモー・ウィレムズ。(どうもと・かおる=NY在住ライター)