「めくりんく」取材レポート
児童書の出版を手掛ける萩原由美さん。彼女が代表取締役を務める株式会社めくるむでは、絵本の読み上げシステム「めくりんく」を開発し、2024年秋から、対応の絵本を販売している。視覚や知能、読字に障害がある方とも一緒に楽しむことができる絵本だ。萩原さんにお話をお聞きした。
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――「めくりんく」とはどんなシステムなんですか?
萩原 読書のバリアフリーを支援するシステムです。絵本のページ全体に、目立たない淡い色のドットがたくさん打たれているのがわかりますか? ここに音声リンクが書き込まれていて、スマートフォンの無料専用アプリをかざすと音声を再生することができます。左のページを読むと文字のテキストが、右のページを読むと描かれている絵の説明が読み上げられます。
QRコードと原理は同じなのですが、コードが目立たないので、絵の鑑賞体験をほとんど妨げません。また、障害を持っている方には、QRコードに狙いを定めるのが苦手な方がいらっしゃいます。ですがめくりんくの場合は、ページのどこでも、一部分にかざすだけで音声リンクを取得することができます。だから、めくりんくは誰でも容易に読み取ることができるんです。
――どうしてめくりんくを開発しようと思ったのでしょうか。
昨今、内容を説明しながら上映する映画も登場してきていますよね。私は絵本でそれがやってみたいと思ったんです。それまで絵本が楽しめなかった障害のあるお子さんも、障害のない子と一緒に絵本が読めるといいな、と考えました。
また、点字の本やマーク、QRコードのある本からは、なんとなく〝特殊な本〟〝特別な配慮が必要〟という印象を受けるようで、ある程度の年齢のお子さんのなかには嫌に思う人もいるみたいです。ですがめくりんくなら、みんなと同じ本を楽しめるんです。そこがいいところですね。
もちろん、点字の本などには固有の長所があります。全く見えないお子さんにとって、触覚を目覚めさせる契機にもなりますから。ですから、そうした媒体を否定するのではなく、選べるメディアの種類が一つ増えた、と考えていただければと思います。
――視覚障害のある方以外からも反響があるそうですね。
萩原 そうなんです。もともとはやはり視覚障害のお子さんやご家族を想定して製作していたんですが、知的障害や読字障害で絵本が楽しめなかった方からの感想をいただくようになり、自分でも気づいていなかった長所を知りました。
美術館の絵画と一緒で、絵にはそれを読み解くためのルールがあります。それを自覚していなかった知的障害のお子さんから、「絵の意味が初めてわかった」といった声が寄せられました。また、絵本は絵と文が同時に展開するものですよね。今まではそれぞれをバラバラに読んでいたけれど、めくりんくで初めて絵本を本当の意味で読むことができた、というお子さんもいるようです。
それから、ある弱視のお子さんは、雄鶏が登場するシーンを読んで、ニワトリにはトサカがあるということを初めて知ったそうです。この子はニワトリを既に知っていたし、ヒヨコを抱っこしたこともあるのですが、大きい雄鶏のトサカを知りませんでした。でも、音声解説の助けを借りつつページをじっと見つめたところ、「そういうことか!」と理解したんだそうです。
「絵本に解説をつけるなんて野暮だ」「自由に読ませればいいじゃないか」という意見も一方では正しいのですが、意外と大人の方でも、絵本を隅々までよく理解して読んでいることはあまりないんです。目の不自由な方だけでなく、いろんな人が絵の読み方を知るための第一歩になるといいですね。
――読み上げられる原稿にはどんな工夫をしていますか。
萩原 絵本の絵解きなので、自ずとやさしい日本語になります。なので、外国の方にも聞き取りやすい言葉になっていると思います。
また、例えば「赤い首輪」「白いユリの花」というふうに、色の情報を意識的に盛り込むようにしています。目の不自由な方は、色のイメージをすごく気にされるそうですから。その他、位置や動きの情報や「はちわれ模様」などといった、子どもが知らない言葉を敢えて入れることも心掛けています。
それから、音声はページごとに読み込む仕様になっています。世間に流通している読み上げ機能の多くは、一度始まったら最後まで止まらずに進んでいきますよね。それは確かに便利ですが、本のページを一枚一枚開いていく経験は失われてしまいます。実は、子どもにとって自分で「本をめくる」ことはすごく大事な所作なんです。自分の意思で読書のペースを決め、主体性を経験するまたとない機会ですから。これはぜひ活かしたいと思ったんです。
あと、読み上げ音声にはプロのナレーターを起用しました。私が製作に携わる本に関しては、絵本の読み聞かせに近い、生身の人の声が流れるものにしたかったのです。そのため、ナレーターの方には「できるだけ一般の人が読んでいる風に、抑揚をつけすぎないでください」とお願いしたこともありました。
――めくりんくの絵本には出版社にとっての利点もあるんだとか。
萩原 はい。例えば、出版・流通のメリットがあります。点字の本は特殊なインクを用いており、衝撃にも弱く、輸送には特別な配慮が必要です。それに対して「めくりんく」は、通常の四色インクで印刷しているので、運送上の配慮は必要ありません。同時に、印刷にかかるコストも通常の絵本と変わらないんです。原稿・音声作成にかかる費用とシステム使用料だけで済みます。出版社によっては、録音をAI音声で代替するところも出てくるでしょう。バリアフリー以外の用途に用いる可能性だってあります。どんな仕様にするかは考え方次第です。
今はとにかく皆さんにこのサービスを知ってほしいです。まずは手に取っていただいて、「面白そう」と思ってくれるお客さんや会社を増やしていきたいです。(おわり)
