2026/06/12号 6面

「読書人を全部読む!」33(山本貴光)

読書人を全部読む! 山本貴光 第33回 書協と出協  前回、文部省が1959年4月に制定した「図書選定制度」に出版界から反対の声が上がった様子を見た。その後の展開を「読書人」で追ってみよう。  第277号(6月1日)に続報が出ている。同号1面に「図書選定反対の動き 書協 強力な啓蒙運動へ――岩波、平凡社など日本出協を脱会」という見出しが見える。  改めて言えば、図書選定に反対声明を出したのは「日本書籍出版協会」で、これは1957年3月に出版181社で設立された団体。私たちに近いところで言えば、少し前まで書店で月に2回、「これから出る本」という近刊情報誌が配られていたのをご記憶の向きもあるかもしれない。これを発行していたのが日本書籍出版協会。先ほどの見出しの「書協」とは同協会を指す。  見出しにはもう一つ、「日本出協」という語が出ていた。こちらは「日本出版協会」を略記したもので、日本書籍出版協会とは別の組織だ。その前身となった組織のことは措くとして、日本出版協会は1945年10月に社団法人として設立されている。  記事に戻ると、日本出版協会は図書選定に「反対しない」という声明を出した。そうした状況について「出版界がこの問題をめぐって、真二つに割れた、とか賛否両論があるとか報道されたが、それは大分見当ちがいのようだ」と記事は続く。なぜそのように言えるのか。記者は三つの理由を挙げている。  その一、反対しない日本出版協会(出協)の声明は、幹部役員数名の個人的見解であるのに対して書協の反対声明は、協議を重ねて総会で決議したものという大きな違いがある。その二、両協会にダブって入会している出版社が89社あり、そのほとんどが書協の反対声明に賛成している。その三、その89の会員の中から出協を退会する社が出ている。具体的には、岩波書店、平凡社、小峰書店の名前が挙がっている。前2社が見出しに出ていたわけだ。  記事では、図書選定制度を実行する文部省の社会教育審議会の読書指導分科会委員のメンバー12名の名前と所属を列挙しているがここでは省略しよう。大学教員、新聞各社の局長、小中学校長などが名を連ねている。これら委員は、出版界が図書選定に反対していることに驚き、書協と二度の話し合いを行った。記事をかいつまんで言えば、委員たちは「良い本を広く普及したい」という善意から同委員となることを引き受けたと弁明した。これに対して出版社側は、その善意は信じるとしても、文部省は委員を自由に交代できるし、内閣が変われば省令の拡大解釈も自由にできる点に不安がある。また、自由出版物について国定教科書のように良否を決めるのはよいことではないと意見を提示した。これを受けて委員から、「出版社側の意見には、もっともなところが沢山ある。認識が浅かったことを反省する」との発言があった。ここだけ見ると、委員と書協のあいだに大きな意見の齟齬はないようにも見える。  なお、同号第6面には「われわれは反対する 文部省の図書選定①」として、石井桃子(1907―2008/52/児童文学者)と亀井勝一郎(1907―1966/52/文芸評論家)の反対意見も載っており、執筆者を替えながら第280号の④まで続く。反対キャンペーンである。(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家・東京科学大学教授)