本当のことを言おうか1・2・3
谷川 俊太郎著
中村 三春
本書は、三巻併せて二四編の対談と、二編の談話、一〇編の初期のエッセーを収める。対談は一九六一年の父・谷川徹三を相手にするものから、二〇二二年の詩人・伊藤比呂美まで、俊太郎二九歳に始まり九〇歳に至る六〇年間に亙って行われたもので、これが年代順に配列されている。相手はこの二人の外、山本太郎、有馬敲、外山滋比古、鮎川信夫、矢川澄子、大岡信、鶴見俊輔、河合隼雄、今江祥智、大江健三郎、長田弘、入沢康夫、小室等、野上彌生子、木島始、ロジャー・パルパース、高橋源一郎、吉本隆明、佐野洋子、和合亮一の面々で、大岡との対話は三編含まれる。陣容は詩人・小説家・絵本作家・思想家・日本語学者・心理学者・歌手など幅広く、谷川の詩業がいかに広い裾野を持ったかを如実に語る。相手も内容も壮観だ。本書はまさしく、対談を通じた谷川俊太郎クロニクルと呼ぶべき集成となっている。
これで「精選」なのだから、その総数は計り知れない。七〇年もの活動期間を過ごした詩人だから当然でもあろうが、それにしても谷川は〝対談の人〟であった。彼には多くのエッセー集があるが、本書にもそこから多くが採られる最初期の『世界へ!』や、子ども向けの『詩ってなんだろう』を除けば、再編文庫本以外には一冊にまとまった詩論書をほぼ残さなかった。その代わり最も重要な理論方面での著作としては、同じ岩波書店から文庫で出ている大岡信との対談『詩の誕生』がある。その他も彼の年譜には晩年に至るまで多数の対談・鼎談・座談会・インタヴューがひしめき、そこで自らの信条や、詩や言葉とその周辺領域について思いのたけを語っていた。(『詩の誕生』の一部は本書にも再録されている)。このことは、対詩・連詩や、絵本・写真詩集など、協働で行う制作に彼が注力したことと根底で繫がっているのではないか。対談という協働の場においてこそ、彼の詩想は明確に引き出されたのである。すなわち、この三巻は、詩人谷川の軌跡をたどる編年史であると同時に、彼の詩学をその形で一望にするような、見通しのよい展望台にほかならない。
もちろん対談なので、詩論は全編に散在する形で述べられる。何より目立つのは、詩と、音・音楽・音読・音感との深い関わりについてである。谷川はアメリカで聞いた詩人の朗読に感銘を覚え、「なにか詩人が詩を声に出すっていう行為は、もうちょっと根本的なものであるべきだというふうに感じてね」と語る(詩人・有馬との「歌にいたる詩」)。彼は「現代詩人というのはやっぱり歌を失っているんですよ」とも言い、それはそのような共同体が破壊されたからとする(歌手・小室との「歌の喪失・根の喪失」)。また耳と舌になじんだ言葉という点で、彼は「漢字は外国語だという印象がひじょうに強い」とし(言語学者・外山との「日本語のリズムと音」)、ひらがな表記こそ「日本人の心身に深く結びついているんじゃないか」と推す(詩人・木島との「日本語のひびきにみみをすます」)。こうして対談は、文字・ノンセンス・オノマトペ・日本語・日本人や、肉体性などにも展開する。
また、詩から始めて多メディア的に活動した谷川の活動の趣意も縦横に明かされる。レオ・レオーニの『あおくんときいろちゃん』に感動して絵本を手掛け(作家・元妻の佐野との「子供時代・絵本・恋愛」)、物語絵本ではなく百科事典・図鑑・写真集に近い認識絵本に注力した理由を述べ(作家・矢川との「絵本とことばと……」)、傑作絵本『あな』の着想を解き明かす(心理学者・河合との「昔話の深層」)。絵本・児童文学を「日本文化全体の映像と印刷の結び付いたメディア」「わりと広い文脈」で論じるべきとする(児童文学作家・今江との「絵本づくり」)姿勢は、CMが「詩にくらべてはるかにラジカルなことがある」(詩人・長田との「日本語と詩の言葉」)と述べ、雑誌『鳩よ!』が標榜したポップな詩の潮流に添う詩人として吉本から評価されること(「ぼくらが愛してゆくこと詩をかくこと」)にも通じるだろう。ここには、詩人の孤絶を尊んだ伝統的な詩観から離れて、よい意味でのマスに詩ジャンルを開き、多彩なフィールドを横断した谷川の面目が如実に示されているのだ。
加えて、父・徹三との「動物から人間になるとき」や佐野との対話、九五歳の野上との「昔の話 今の話」など、谷川の日常を窺わせるやり取りも興味深い。佐野との話では「女と男のちがい」に触れられるが、詩における「私」(エゴ)の話題で、「文芸の場で生きてると、やっぱりジェンダーとしての男と女がいる」「いくらエゴの強い女でもどっかでそのエゴをへし折られた経験があるんですよ」と、真っ向勝負を挑む伊藤との掛け合い(「詩とことば」)も非常におもしろい。これに対して男性詩人の谷川はどのように切り結んだか。谷川の男女観を含め、作品を読むにあたっても考えてみたい課題の宝庫である。谷川ワールド全開の本書は、ぜひ三巻セットで揃えたい。(なかむら・みはる=北海道大学名誉教授・日本近代文学)
★たにかわ・しゅんたろう(一九三一―二〇二四)=詩人。一九五二年『二十億光年の孤独』でデビュー。詩作のほか、絵本作家、翻訳家、作詞家、脚本家としても活躍。二〇二二年には詩の世界で最も権威があるとされる「ストルガ詩の夕べ」金冠賞受賞。
書籍
| 書籍名 | 本当のことを言おうか1・2・3 |
| ISBN13 | 9784000617208 |
| ISBN10 | 4000617206 |
