日常の向こう側 ぼくの内側 726
横尾忠則
2026.2.2 国立東京医療センターの耳鼻科の角田先生と内科の鄭先生を訪ねる。耳が突然パーンと張った感じになって飛んで行くが、角田先生の顔を見た途端治ってしまったので用がなくなって、鄭先生に近況報告をする。腎臓に弱点があるので腎臓に負担にならない食事で塩分、タンパク質を採り過ぎないようにと言うが、高齢者はタンパク質を制限すると筋肉が落ちるので、結局は食べたいものを食べれば良いと小一時間のレクチャー受ける。当病院はレストラン、ティールーム、コンビニ、書店などを巡る愉しみがある。
2026.2.3 延々続いているアトリエの工事の中での生活は落ちつかない。ベランダの手摺のレモンイエローが気に入らないのでクロームイエローに変更、床を白く塗るように指示する。
日課の仮眠は快適だけれど早くベランダを完成してもらって日光浴がしたい。
ドラクロワシリーズ8点目に取りかかる。
夜は黒澤明監督の「天国と地獄」を観る。
2026.2.4 玉川病院の腎臓科の今村副院長の診断を受ける。問題があるようでない。毎日のように肉体と対話をしながらまだ生きている。
帰路、神戸屋へ。メニューはいつもシェフ長と話し合って定める。
アトリエに戻ってベルリン展のカタログに大量のサインをする。
2026.2.5 今週の『女性セブン』で田村正和夫人の急逝の記事を見てびっくり。しばらく顔を見なかったが、24年の10月に亡くなっていた。正和くんの場合は本人から何となく予感をしていたが、奥さんには驚いた。夕方になると自然に外灯が点くので、まさかのびっくり。晩年は夫婦でよく散歩していたし、アトリエの外から手を振ってくれていた、そんな仲睦まじさにいつも気持がなごめたのに、最後に会った時の印象が脳裏から離れない。
西脇の丸萬商社から帰郷した時に制作した杉原紙漉きの作品を織物にしたいと来訪。内外のテキスタイルの仕事が急速に増えている。フィレンツェでのポスターとテキスタイル展もあることだし。
夕方の4時になると急速に冷えてくるので急いで帰宅する。
2026.2.6 この前のアトリエへの途上、突然胸に痛みが走って以来、急に体力が落ちている。
TOPPANの富岡さんが「ほぼ日」のポスターの校正刷を持参。汚れが効果なのに、汚れをきれいに流してつまらない作品にしてしまった。デザイナーやクライアントからいつも汚れを取るように指摘されているらしく、困ったもんだ。最初からやり直し!
午後、玉川病院で脳のMRI検査。脳には全く異常なし。自分が「何者であるか」を知るためには肉体を哲学化する必要が、ぼくにとっての健康法。皆笑うが医者はぼくの生き方に賛同してくれる。医者の賛同は商売じゃありませんよ。
アトリエ内に住むネズミがウイルスを運んでくるので、工事の人にネズミをアトリエの外に追放してもらう。
2026.2.7 〈ニューヨークで展覧会をやっているので、絶対ニューヨークに行くべきですよと妻が言う。もう海外へは20数年間行っていないので億劫だなあと思う〉夢を見る。そういうと平野啓一郎くんが「ぼくのいる間にぜひニューヨークで個展をやって下さいよ」と言っていたっけ。早速、チェルシーのマークベンダー画廊にコンタクトを取ってみよう。
午後、雪になるかもとの天気予報を信じて、自宅で仕事(エッセイなど)をすることに決めた。やっぱり12時から降り出した。けれど3時には止んだ。
食いしん坊のおでんが好物のまぐろちゅーるにも見向きもしないのは具合が悪いのかな。とその後、突然大量に嘔吐。徳永に来てもらって池田動物病院へ。
2026.2.8 〈歌舞伎座へ〉。いつも夢で見る歌舞伎座と現実とはかなり異なる。夢と現実の境界が曖昧になってきている。この現象は意識と無意識が共に崩壊していくようで、AIが現実を浸蝕している状況とどこか似ている。(よこお・ただのり=美術家)
