2026/10/09号 5面

オズの魔法使い

〈書評キャンパス〉ライマン・フランク・ボーム『オズの魔法使い』(楠畑さくら)
書評キャンパス ライマン・フランク・ボーム『オズの魔法使い』 楠畑 さくら  『オズの魔法使い』と聞いてワクワクしない人はいないのではないか。『オズの魔法使い』は絵本をはじめ、アニメや映画、劇など、多彩なメディアに形を変え、広く親しまれている、おとぎ話のお手本のような作品だ。  竜巻によってオズの王国へと飛ばされたドロシーは、オズ大王に故郷へ帰りたいという願いを叶えてもらうためエメラルドの都を目指す。旅の途中で仲間になった、かかし、ブリキのきこり、ライオンにも叶えたい願いがあった。一団はそれぞれの願いのために冒険をする。  しかし、脳みそを欲しがっているかかしが危機から脱する案を出したり、心を欲しがるきこりがみんなに優しく接したり、勇気を欲しがるライオンが仲間のために命をかけて敵と対峙したりする。また、故郷へ帰ることを望むドロシーも、オズの王国へ迷い込んだ際に手に入れた魔法の靴を使えば、すぐに故郷へ帰れるということに気づいていなかった。みんな、望むものはもう手に入れていたのだ。あとは自分を信じる力が必要であった。本当に必要なものは自分の中にあり、そのことを自覚できるかどうかは、自分を信じる力に委ねられているということに気づかされる。  また、悪い魔女に感動秘話がなく、根から悪い魔女であったことが良い点だと思った。  そして、『オズの魔法使い』には読者の心をワクワクさせるものが多く登場するが、その中でも、陶器の国は特に魅力的である。大皿のような地面と色とりどりの陶器の家。植物も生き物も服も靴も陶器でできている。人形のような人々は、陶器の国の中で自由に生きている。陶器の国を出て、ただの飾り物として不自由な扱いを受けることを恐れているのだ。国中がツヤツヤと輝く景色を、想像するだけで楽しくなる。  陶器の国の住民は体が欠けると修理屋に行く。修理屋で直せるならひびが入っても良いとも思うが、ひび割れを直すと跡が残る。この、跡が残るという点にもロマンを感じる。空想の中に現実的な要素が入ることで、陶器の国が実在するような感覚になる。  冒頭における作者ボームの宣言通り、そこには教訓や寓意はない。『オズの魔法使い』は物語を純粋に楽しむ心を思い出させてくれる。幼い頃は絵本を読み、絵の綺麗さや状況の不思議さを楽しんでいた。しかし、大人になるにつれて読書は知識を得るためのものであるという考えに切り替わっていき、何か学びを得ようとして本を開いていた。  『オズの魔法使い』を通して、物語の世界に入り込むことの楽しさを思い出すことができた。知識を得ようとする読書も大切だが、考察や寓意などを考えずおとぎ話の世界にただ浸る、という時間も大切にしたい。

書籍

書籍名 オズの魔法使い
ISBN13 9784102181515
ISBN10 4102181512