2025/11/28号 5面

モナミは世界を終わらせる?

〈書評キャンパス〉はやみねかおる『モナミは世界を終わらせる?』(田澤杏香)
書評キャンパス はやみねかおる『モナミは世界を終わらせる?』 田澤 杏香  「教室に不審者が現れて、自分がヒーローになる」「転校生が実はスパイだった」「ある日突然、世界を救う使命を与えられる」。  そんな非現実な空想に胸を高鳴らせた日々が、筆者にはあった。もしも〝子どもの頃の妄想〟が、本当に起きてしまったら? 本書は、そんな「あり得ない」が「現実」となってしまう世界で生きる、女子高生・モナミの物語である。  モナミは典型的なドジっ娘。しかも大食い。彼女が歩いた後には草花がなぎ倒されるという、まさに〝歩く災害〟。彼女の周囲では不可解な小さな事件が立て続けに起きる。教室に蛇が現れたり、バスのタイヤが突然パンクしたり。しかし、これらはすべて偶然ではなかった。  そんなモナミに目をつけたのが、丸井丸男と名乗る男。彼はモナミの「小さなドジ」が、世界の重大事件と〝シンクロ〟していると語る。例えば、モナミが原因で運動部の練習場所を巡る争いが起きた日、地球の裏側の中東では国連軍が紛争に介入していたという。まるでモナミの何気ない行動が、世界の運命を左右しているかのようだ。  彼女の行動が未来を変える。世界に対する「不確定要素」であるモナミは、戦争が起きるのを待っている人間たちにも、同時に平和を願う人々からも、命を狙われる。そして、モナミの引き起こす「ドジ」が世界の均衡を揺るがすと考える一族を代表し、丸男はボディガードとして、モナミの学校に転校してくる。だが事態はさらに深刻化する――。  突飛な設定に思えるかもしれないが、実際に読むと、意外なほど自然に物語に入り込める。それは作者が登場人物をとても丁寧に、そして魅力的に描写しているからだ。特に印象的なのが、主人公モナミと、彼女を守る丸男のキャラクター性である。モナミには、なぜか憎めない愛嬌がある。一方の丸男はというと、見た目はクールだが、実は重度の〝妹好き〟。現実にはいなさそうなのに、読んでいるうちに「こういう人、本当にいそう」と思わせる説得力がある。  また中学生向けのライトな学園ストーリーのようでありながら、物語の中には中東の争いや国連の介入といった、国際情勢が巧みに織り込まれており、意外な深みを持っている。フィクションの枠を超えて、「世界で起きていること」への関心を自然に引き出してくれる点も、大きな魅力のひとつだといえる。  筆者は、作者のはやみねかおる氏の作品を敬愛しており、本作もまさにその系譜にあると感じた。奇抜な設定をリアルに、そして愛情たっぷりに描くスタイルは、読むたびに新たな発見がある。  果たしてモナミは、世界を救えるのか? それとも彼女のドジで、世界は滅んでしまうのか? ぜひ、その行く末をあなたの目で見届けてほしい。  ★たざわ・きょうか=帝京大学文学部日本文化学科。舞台鑑賞、御朱印集めが趣味。歩くことも好きで三駅分歩き、通りにある神社仏閣を巡り歩いている。

書籍

書籍名 モナミは世界を終わらせる?
ISBN13 9784041020449
ISBN10 4041020441