エスノセントリズム
ボリス・ビズミック著
中西 大輔
本書はオーストラリアの心理学者ボリス・ビズミック氏のEthno-centrism: Integrated Perspectivesの全訳である。社会言語学者の石部尚登氏による読みやすい日本語訳によって、「自民族中心主義」と訳されることの多いエスノセントリズムについて、その研究史(第一章)、概念(第二章)、生起要因(第三章、第四章)、社会的帰結(第五章)、著者自身の調査データの分析結果(第六章)、さらには心理学におけるエスノセントリズムの蔓延(第七章)まで一気に見渡すことができる。
著者はエスノセントリズムを六次元モデルの中で位置づけている。エスノセントリズムとは「自らの民族集団を万事の中心に据え、ゆえにきわめて重要であるとする信念に関わる社会心理学的な構成概念」である(一六頁)。エスノセントリズムは大きく集団内のものと集団間のものに分けられる。前者は献身性(自集団の利益のために行動する傾向)と集団凝集性(個人よりも集団としての団結を重視する傾向)から、後者は選好性(自集団を好む傾向)、優越性(自集団が他集団より優れているとみなす傾向)、純粋性(文化的多様性に対する不寛容な傾向)、搾取性(自集団の利益を最優先する傾向)から構成される。これら六つの次元が、他の心理学的構成概念といかに関連しているのかの分析(第六章)から分かるのは、こうした概念を善悪の二項対立で理解しようとすることの危うさである。確かにエスノセントリズムは戦争支持や平和への消極的態度と関連しているが、保守志向の価値観や道徳的価値観、兵士や貞潔を守る人に対する肯定的態度とも関連している。これらの知見は、エスノセントリズムが集団維持に関わる重要な心理的傾向である可能性を示唆している。
これに関連して、著者はエスノセントリズムの存在が進化的適応であった可能性について論じている(一九九頁)。しかし、この点についてはさらなる議論が必要であろう。というのも、これは集団維持に資する傾向が進化すると考える典型的な群淘汰的議論だからだ。協力はコストを負って他者に利益を与える行動傾向と定義されるため、なぜ人々が集団への協力を促すようなエスノセントリズム的傾向を進化の過程で獲得したのかが説明されなければならない。著者は第四章でハモンドとアクセルロッドによるモデルを引用しながら、エスノセントリズム傾向の進化について論じている(一四〇頁)。この研究は極めて重要であるが、このモデルは二者間の囚人のジレンマに基づくものであり、三者以上の相互作用に単純に拡張できるものではない。
本書が最も盛り上がるのは第三章と第四章である。ここでは、エスノセントリズムの存在を説明するさまざまな理論が紹介される。読者としては著者がどの理論に肩入れしているのか気になるところだが、実際にはどの理論に対しても容赦ない批判的検討が加えられる。激詰、めった切りにしていくのだ。この分野に足を踏み入れたばかりの研究者には必読であるし、理論の問題点を知りながら牽強付会な議論をしているベテラン研究者にとっても目を背けることのできない内容である。著者の議論は終始、論理的かつ誠実である。
さらに興味深いのは第七章である。エスノセントリズム研究を牽引してきた心理学そのものが、いかにエスノセントリックであったのかについて鋭い批判が展開される。WEIRDの議論である。著者は大真面目に「できれば非ヨーロッパ系の言語を学ぶことを心理学者に義務づける必要があるかもしれない」とまで述べている。もちろんそれは現実的な提案ではないだろうし、エスノセントリズムが人間の集団生活に深く根差した心理傾向であるならば、それを完全に克服することも容易ではない。しかし、だからこそ本書のような存在が必要なのだ。エスノセントリズムについて考えるすべての人に、一読を勧めたい。(石部尚登訳)(なかにし・だいすけ=広島修道大学教授・社会心理学)
★ボリス・ビズミック=濠の心理学者。専門は社会心理学・政治心理学パーソナリティ心理学。
書籍
| 書籍名 | エスノセントリズム |
| ISBN13 | 9784750361192 |
| ISBN10 | 4750361194 |
