2025/12/19号 10面

日本史近代以後

日本史近代以後 阿部 安成  大田洋子が文庫で読める〔『屍の街・夕凪の街と人と』岩波書店〕、しかも江刺昭子の解説つき、これがありがたい。今年2025年が「戦後80年」を数える賜か。「大田の原爆文学は絶版状態が長く〔略〕そこにはジェンダーが働いているのではないか。」と江刺――「女の怒りや抗議は、男社会ではまともに扱われない傾向がある。」との寸鉄、いや匕首か。  「震災30年」である〔内田伸一ほか編、パメラ・ミキ・アソシエイツ英訳『30年目のわたしたち 1995⇄2025阪神・淡路大震災30年』兵庫県立美術館〕。「震」は一回ではなかったから、14年め、1年めと、くりかえし「災」を考えている〔坂口奈央『生き続ける震災遺構 三陸の人びとの生活史より』ナカニシヤ出版/藍原寛子『フクシマ、能登、そしてこれから 震災後を生きる13人の物語』婦人之友社〕。兵庫県立美術館は「波」と「浮標」を展示。それぞれに、反復への、遠隔への動力、慎重さや注意や大切さをめぐるしるし、また、拮抗する表象として、その二つは、わたしたちと歴史とのまえにあるとおもう。  さらに100年がある――〔荻野富士夫ほか編『治安維持法一〇〇年 「新しい戦中」にしないために』大月書店〕。編著者たちの危機意識が、「すでに「新しい戦前」は進行しつつあり、現在は「新しい戦中」とも呼ぶべき事態に迫りつつあるのではない」かと訴える。  戦争はすべてのひとを当事者とした。だから隈なく探られ〔吉田裕『続・日本軍兵士――帝国陸海軍の現実』中央公論新社(本書の鍵は「生活」「衣食住」)/那波泰輔『「わだつみ」の歴史社会学 人びとは「戦争体験」をどう紡ごうとしたのか』雄山閣/塚原真梨佳『戦艦大和の歴史社会学 軍事技術と日本の自画像』新曜社/上田貴子ほか編『「満洲」 在地社会と植民者』京都大学学術出版会、など〕、その行く末をたどらなくてはならず〔油井大三郎『日系アメリカ人 強制収容からの〈帰還〉 人種と世代を超えた戦後補償運動』岩波書店/ダニエル・ジェイムズ・ブラウン『遥かなる山に向かって 日系アメリカ人二世たちの第二次世界大戦』森内薫訳、みすず書房(本書の鍵は「Densho」「伝承」)/松原文枝『刻印 満蒙開拓団、黒川村の女性たち』KADOKAWA、など〕、そのあらわし方をくふうする必要がある〔キム・スム『沖縄 スパイ』孫知延訳、インパクト出版会/山田英生編『戦争と漫画』(「戦地の物語」「銃後の物語」「焦土の記憶」)筑摩書房/佐々木真ほか編著『戦争を展示する 戦争博物館の過去・現在・未来』大月書店/新里堅進ほか『ソウル・サーチン 「沖縄」を描き続ける男・新里堅進作品選集および評伝』リイド社、など〕。いやな比喩とわかって使うと、80年という歴史が戦争関連図書の(実証研究もフィクションも漫画もまぜこぜに)いわばmassive attackを現出させたのだ。もう二つ――歌舞伎が、観光が、戦争とつながっていた〔ジェームズ・R・ブランドン『歌舞伎の戦争十五年戦争とその影』小田中章浩ほか訳、名古屋大学出版会/高媛『帝国と観光 「満洲」ツーリズムの近代』岩波書店〕。  むすびに、加藤陽子の『となりの史学 戦前の日本と世界』(モリナガ・ヨウ絵、毎日新聞出版)。著者が「専門とする日本近代史からすれば隣接領域である、西洋史・東洋史あるいはグローバルヒストリーなどの世界史の面白さを堪能する、羨望するというコンセプト」がそこにつまっている。「お隣さま」への目配りは、互いの隔たりとちかしさを伝えあう目配せにもつながるのだろう。(あべ・やすなり=滋賀大学教員・近代日本社会史)